新居の内見
辿り着いた村の村長に挨拶を終えたリオネルたちは、その夜を村唯一の宿屋で過ごした。
その翌朝。というか昼頃。
リオネルとリリア、フィオナは朝食を兼ねた昼食を宿屋の食堂で食べ終えると、荷物を預けて一旦宿屋をあとにした。
「すみませんリオネルさん」
「何がです?」
「目が見えない私に良くしていただいて、です。」
「気にしないでください、って言っても貴女は気にするんでしょうねえ。優しい人だから」
リリアを抱っこして、フィオナに肩を貸して歩き慣れない村を歩いていくリオネルは、見えてはいないフィオナに向かって苦笑する。
そんなリオネルの言葉に、フィオナは気まずそうに俯くが、同時に照れて顔を赤くした。
そこからしばらくも歩かないうちにリオネルたちは村長宅前に差し掛かるが、そこにポテっと太った四脚の草食竜が荷台をハーネスで繋がれて止まっているのを見つける。
「あれなあに?」
「草食竜のミーテだよ。大人しい生活でね。牛さんやお馬さんなんかと一緒で、僕たち人間たちとも仲良しなんだ」
抱きかかえているリリアからの質問に、答え、その横を通り過ぎて三人は村長の家の玄関前に立つと、ドアをノックした。
「やあ来たね。じゃあ早速行くとしようか。アレに乗ってね」
中から姿を表した村長がそう言って、表のミーテの竜車を指した。
「割と遠かったりします?」
「それほど遠くはないよ。でもまあ、流石に歩いていくにはちょっとね」
そう言って、村長は馬車の御者席に向かっていった。
リオネルたちは荷台に乗り「みんな乗りました」と言ったリオネルの言葉を聞いて、村長は竜車を発進させる。
人間が歩くよりはやや速いといったのんびりした速度で、幌のない竜車は進んでいった。
「今から行くのは昨日話していた占い師が住んでいた場所でね」
「そこに僕たちを住まわせろと?」
「できるなら、という注釈付きだったよ」
「できるなら?」
「理由は知らない。ただ、あの婆さんが死んでから、何人かはあの場所に住もうとしたんだけどね。皆一週間と保たずに元の家に帰っていったよ」
理由は知らない。そうは言ったが、村長はどことなく楽しげで、それでいて悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
そんな村長にリオネルの隣に座っていたフィオナが「そこには私も住んで良いのでしょうか?」と、申し訳なさそうに聞くが、村長の回答は「さて。それは聞いてないなあ」というものだった。
「僕が聞いたのは二人をこの村に住まわせろって話で、今から行く場所には住めるなら住んでも良いって話だったから。一緒に暮らすかどうかは君たちの問題だよ」
「ああはい。確かに、それはそうですね」
「このまま三人で暮らせるなら、それはそれで気楽かも知れませんねえ」
このリオネルの言葉に、俯き気味だったフィオナが顔を上げ、声が聞こえてきた方に顔を向けた。
しかし、それ以上の言葉はリオネルからはなく。
なんと返答するのが正解か分からず混乱するフィオナたちを乗せて、竜車はのんびり進んでいく。
そうしていると、村長が乗る竜車に村の前から歩いてきた住人たちが声を掛けてきた。
「ロデリック村長。その人たちが言ってた新入りかい?」
「うん。そうだよ仲良くしてやってね」
「この村に新入りを追い出そうなんて輩はいねえですよ。よろしくな新入りたちよ!」
「あ、はい! よろしくお願いします!」
通り過ぎていく村人に頭を下げるリオネル。
こんな事を何度か繰り返していると、町の中心部から少し外れ、竜車は林の方へと向かったかと思うと、小さな川の横を進み、人が通れるくらいの石橋の前で村長は竜車を止めた。
「あれがその物件だよ。住めるなら中の家財も譲るそうだ。さて、じゃあちょっと見に行こうか」
「え? ここですか? 小さいとはいえ結構な館ですよ?」
「綺麗なものだろう? 近くの石を切り出して造ったそうだよ。僕たちがこの村に来る前からあったんだ」
「じゃあ。その占い師のお婆さんが住んでいた近くに村を作ったんですか?」
「最初は気付かなくてね。いや、人払いの結界を使ってたって言ってたなあ」
「魔法使い、だったんですね」
「そうだね。まあ、僕たちにとっては最後まで良き隣人で、占い婆さんだったけどね」
話をしながら小さな石橋を渡るリオネルたち。
そんな時、リオネルがふと見上げた館の二階の窓に人影が映る。
「どうかしたかい?」
「ああいや。誰かが」
村長の声に答えるために視線を落とし、再び人影が見えた小さな館の二階の窓を見上げるが、そこには人影などなく。
ただ、使われていないにしてはいやに綺麗なカーテンが閉じられているのが見えていた。
「えっと、鍵は確か〜。ああ、あったあった」
館の玄関前で村長が上着やズボンのまさぐり、鍵を取り出して扉の鍵穴に挿す。
それに連動して魔法陣が扉に浮かび上がったと思うと、カチャリと解錠した音が響いた。
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