第29話
「海吏はさ、どうして旭堂学園に来ようと思ったの?」
「親に行けって言われたからっすかね。俺の家族、みんなここ出身なんで。」
「そうなんだ!てっきりテニスやりに来たのかと思った。」
「そんなわけ…。受験だってギリギリでしたからね。合格最低点、多分俺ですよ。」
「だけど合格してるんだから、海吏は凄いよ。」
「…先輩こそ、どうしてここに?」
先輩のような家柄も成績もテニスの実績も申し分の無い人に聞くまでもないことだったということを、聞いてから思った。
「俺はね、昔…小学生の頃、すごく仲良くしてくれてた人がここに来るって言ってたからだよ。一緒にここで頑張ろうって約束したんだ。」
「なるほど…。」
正直、隼先輩にそんな理由があったことは意外だった。
「その人も、今ここにいるんですか?」
何気なく聞いたつもりだったが、いつもは何でもすぐに答えてくれる隼先輩が、少しの沈黙を作った。
(聞いちゃいけないことだったのかな?)
静まり返った2人の空気に、俺は少し反省した。
だけどその心配を余所に、隼先輩は穏やかな顔をしてさらりと答えた。
「…その人は…ここにはいないよ。」
ハイスペに囲まれた平凡野郎が、はじめて恋をした話 @sakusaku16868
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