第26話

「…本当にいいんすか?先輩、女子からモテモテだったじゃないですか。」


ファミレス合コンが終わり、俺と隼先輩以外の皆は二次会と称してカラオケへ行った。


俺は隼先輩と、2人であてもなく電車に揺られていた。



「いいんだよ!今日、どうしても海吏ともっと話したかったから。」


「…まあ、先輩なら今後もいくらでも連絡来るでしょうしね。」


「そうかな?」


さも興味が無いように、隼先輩は柔らかく笑って俺の言葉を受け流した。


「ねえ海吏!あの銀杏の木、すっごくいい感じに色づいてるよ!」


「そうですね。銀杏は遠くから見るのは好きですけど、近づくと臭いので嫌いです。」


「においはきついけど、食べると美味しいらしいよ。でもつい食べ過ぎて中毒症状になる人も毎年出てるんだって。」


「そうなんですね。詳しいですね先輩。」


心地よい電車の揺れに体を乗せながら、こんな風に他愛ない話をする。


そんなひとときを、俺は噛み締めていた。


「今日は空が綺麗で気持ちがいいねえ。」


隼先輩はまるで美しいその心を映すかのように、目に飛び込んでくるものへのまなざしが優しい。


一人では決して目を向けることのないものごとにも、しっかり見つめ合っている。


そしてそれを、惜しみなく俺にも共有してくれる。


一緒にいると、まるでこちらまでも心が澄んでくるような気がする。


そんな隼先輩を独占している俺は、なんだかとてつもなく得をしているような気分になった。

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