第25話

(先輩たちは…今まで人の悪意に触れた事なんてないんだろうな。みんなから好かれて愛されて。自分が除け者にされる感覚なんて、味わったこともないんだろうな。)


うっかり下を見れば何かが溢れそうな俺は、咄嗟に天井を見上げた。


すると鼓膜を震わせる優しい声が、俺の耳に届いた。


「天井に何かあるの?」


「…隼先輩…」


なぜだか今はこの優しい顔を見ると、不意に泣きたくなってしまう。


俺はフイっと顔を背けた。


「何でも無いっすよ。変わった天井の柄してるなーと思っただけで。」


「そう?海吏って感性が面白いよね。そういうところも好きなんだけどさ。」


「そうですか…」


こんなときにそんなことを言われると、余計に惨めになる。


隼先輩の言う「好き」は、女子が見知らぬ子供に言う「かわいい」と同じくらい無意味なものだ。


それなのに…


「……海吏。このファミレスが終わったらさ、どこか遊びに行かない?…二人で。」



今はこの人の発する言葉一つ一つが、こんなにも胸に突き刺さるなんて、自分にとって意外だった。


だけどその言葉が、どうしようもなく俺の胸の奥で欲していたものであるということもまた、瞬時に自覚していたのである。


「…何言ってるんすか。先輩がいなきゃ、皆悲しむでしょ。」


「俺は海吏がいないと悲しいよ。せっかく一緒に遊べてる貴重な機会なのに。」


「俺はいなくても…っていうか、いない方が盛り上がると思うんすよね。」


「そんなことないってば!」


うじうじしている俺をじれったいとでも言うかのように、隼先輩は強引に俺の手を引いた。


「ちょ…先輩…どこに行くんすか?」


「一旦席に戻らなきゃ。でも、ここが解散したらちゃんと俺についてきてね?」


片手にグラス、片手に隼先輩の手。


不思議な組み合わせが俺の両手を塞ぎながら、どこかわくわくするような心持ちで、手を引かれるままに席へともどった。


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