第3話

「おっ、海吏かいりお前また怒られてたなぁ!赤点取りすぎたのか?」


職員室前の廊下を歩いていると、ふと背後から声をかけられた。



佐伯さえき先生……」


「平塚先生こえぇよなぁ。怒らせるお前が悪いんだけどさ。」



ガシッと力強く俺の肩に手をかけてきたのは、俺が所属しているソフトテニス部の顧問。


「……赤点なんて取りすぎて今更そんなことで怒られないっすよ。なんか去年の授業のプリントなくしたからってキレられました。」


「アホだなぁお前!そんなん正直に言うなよ。」


「まあ嘘つくのもダルいんで。今度プリントもってこいとか言われたら即バレるじゃないですか。」


「なめてんなぁ……。ていうかお前、最近自主練行ってないみたいじゃないか。お前下手くそなんだからさぁ、毎日自主練しても足りないだろ!」


「………別に……。自主練したところで変わらないでしょ。この学校、バケモンばっかじゃないですか。」



職員室前にずらりと並ぶトロフィーや優勝旗を一瞥する。


そこに書かれているのは、全国大会優勝の文字。



「バケモンに少しは追いつこうって思わねぇのかよ~?」


「…別に。個人戦出られればそれでいいんで。」


「ったくおめぇは。そんなんだから先輩たちにも怒られるんだぞー?」


「はぁ。」



俺がこんなにナメ腐った態度でも怒らないのは、この学校では佐伯先生くらい。


この人は30歳前後だし、感覚が俺らの世代に近いような気がする。



少なくとも、職員室で俺を怒鳴りつけていた昭和の頑固親父とは全く別の人種であることは確かだ。

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