答え合わせのジグソーパズル

「真子、放送室行こう」

 さっきまでスマホを眺めていた健人が私を放送室に誘う。私たちは昼休みの校内放送のために放送室に行かなければいけない。

「うん!」

 私はあいつからのメッセージが気がかりで、引きつった笑い方しかできなかった。

 放送を終えてスマホをチェックするとあいつからメッセージが送られてきていた。

「さっきのスクショ、真子ちゃんから送られてきたの」

 私は状況を飲み込めなかった。私はあいつにスクリーンショットを送っていない。送るわけがない。何故このアカウントをあいつが知っているのか? 何故私から送られてきたと嘘をついているのか? 冷や汗がどんどん出てきて上手く息を吸えなくなる。

「真子、体調悪そうだけど大丈夫?」

 健人が私の顔を覗き込む。その澄んだ瞳が私の汗まみれの顔を捉えていた。

「放課後の放送、俺やっとく」

 心配だから、と付け足すと健人は優しく微笑んだ。

 私は教室に戻るとインスタを開いた。

 さっきのスクショ、真子ちゃんから送られてきたの。

 誰かが私になりすまして咲にスクリーンショットを送ったに違いない。私はツイッターを開き「ナマケモノ観察日記」の投稿を確認する。すると「あいつにぴったりの動物はナマケモノ」と書いた投稿に一件のいいねが来ていた。非公開アカウントからのいいねのため、いいねをしたアカウントは確認できなかった。誰か私のアカウントを監視している人がいるのかもしれない。監視するとしたら誰が何の目的で行っているのか?

 午後の授業が始まる合図のチャイムが鳴る。昼休みが終わってもあいつは登校しなかった。授業が終わり帰ろうとしたとき、あいつからメッセージが送られてきた。

「健人君に私の病気の話するね」

 病気……? 私は頭の中がこんがらがる。

「私、朝起きられないのは病気が原因なの。自律神経の機能の低下によって、起立時に血圧が低くなってしまうという病気」

 私は「ナマケモノ観察日記」の投稿を思い出す。

 朝起きられないのは怠け。男に媚売るキモ女。

 あいつにぴったりの動物はナマケモノ──。

 朝起きられないことに原因があるなんて知らなかった。知ろうともしていなかった。自分の想像力のなさを痛感した。

「今から課題のプリントを取りに教室に行くね」

 何者かに頭を殴られたような衝撃だった。私は最低なことをしていたと気付いた。

 全てを謝ろうと思った。私はずっと醜かった。健人になりすまして咲からの手紙の返事をしたことも、最低なアカウントを作って悪口を投稿し続けていたことも。

 教室に残っていると放課後の放送が流れてきた。

「放送部が放課後の校内放送をお送りします」

 教室のスピーカーからしんみりとしたクラシック音楽と一緒に健人の優しい声が流れる。健人のその声は私の心を落ち着かせた。きっと大丈夫だ。正直に真実を話せば、咲は私を許してくれるはずだ。

 私は自分にそう言い聞かせて咲が教室に来るのを待った。教室には私一人だけになっていた。スマホを開くと咲からメッセージが来ていた。

「着いたよ」

 教室のスピーカーからは放送が流れ続けている。健人の声がスピーカーから聞こえる。しかし、教室の入り口にいたのは健人だった。

「え、放送は?」

「前に録音していたものを流しているんだ」

 いつも澄んでいる健人の優しい瞳には光がなかった。

「私は今咲と待ち合わせしてるの。咲はもう着いたって言ってるんだけどなかなか来なくて……。健人、咲のこと見なかった?」

「だ、か、ら、着いたよ」

「どういうこと?」

「言葉通りだよ」

 健人はスマホの画面を私に向けた。そこには健人になりすました私と咲のトークが表示されていた。

「何も分かっていないキミには説明が必要なようだね」

 答え合わせをしよう。健人はそう言うと、机の上に座り足を組んだ。

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