ロボットのやり直し譚

@midori822

プログレス

特別な力。

誰しもが望んだことのあるものだと思う。

超能力を授けてください。

時間を停止させれるようにしてください。

過去に、行かせてください。


もちろん、そんな力なんてない。

人間に与えられた特別な力とは、努力だけなのだから。

でも、僕には努力すらない。

努力があれば何もかも成せる。

昔はそんなことを言われていた。

でもそうじゃない。

努力をできない奴だっている。

努力を奪われる奴だっている。


僕の、僕の生活は地獄だった。

僕には幼少期は愚か、児童期もなかった。

いや、正確には歳という概念がなかった。

いわゆるロボットっていうやつだ。


家事をこなしたり、何かを生産したり…

そんなのが大半のロボットだ。

僕は、違った。

一目見れば、人間の見た目と何ら遜色のない体。

知識は最初からインプットされていて、学ぶ必要がない。

知識の中には多種多様なものもあり、僕達は人間の感情を常に演じていた。

全てが完璧、という名目で作られたのが僕達なんだ。

僕達が狂ったのはここからだった。


【初計画 プログレス 】

人類が進歩する、可能性に満ち溢れた計画。

最初の内容はロボットに人間と同じくらいの感情を与えたらどうなるのか?という実験。

最終的な目標は、最高の頭脳と最高の身体、最高の精神を持ったロボットの大量生産。


世界初の試みに選ばれた僕達は名誉あることだとか言われた。

計画の内容は、僕達には知らされてなかった。


「001、頑張りましょう」


「…002、そうだね。頑張ろう」


僕達は全員で22人いる。

001から022まで、男女別で11人。


僕達は最初に、性別ごとに別けられた。

全身を黒色のローブで包んだ女性がいた。


「アンタが001ぃ?アンタはぁ最後ねぇ」


僕を抜かし他のみんなが続々と部屋に入る。

そしてすぐに聞こえてきたのは、大きな破裂音だった。


「んん〜、始まったねぇ」


僕達の体には血液や内臓は要らない。

だけど、代わりに緑色の液体が血液が本来循環するところに入っている。

その液体が目の前の床に飛びっ散っていた時点で、僕は気づいてしまった。


「なぜ、壊しているのでしょうか?」


「…001ぃ、アンタに発言を許可した覚えはないよ」


「すみません、しかし気になります」


そうすると、女性は舌打ちをして僕の背中に手をかけた。


「アンタの番だ。」


ロボットなんか薄気味悪い。

なんて部屋に入るときに聞こえたけれど、作ったのは貴方達じゃないの?

なんて思ったりした。


中は、ぐちゃぐちゃだった。

下半身から全部がなくなっている者もいれば、四肢がもげている者もいる。


「おい、001。こっちだ」


ローブをかぶった男性が、僕を大きな台に設置する。


「お前で最後なんだ。頼むから、人類に希望を見せてくれよ」


マスクをつけているが、隙間から目が見えた。

赤く膨れた目。

目尻からは涙が出ており、それが止む気配はない。


「頼む、お前が成功しないと、子供が、家族がっ…」


男性は落ち着きを取り戻し、道具を手にする。

赤、青、緑、黄の光る石。

それは吸い込まれるように僕の体に浸透する。

男性は安心したかのように息をつき、次の道具を取り出した。

…刀だ。

本とかで見るような、立派な刀。

恐らく日本刀だ。

その刀を僕の右腕に近づけ、振り下ろす。


痛み。

視界が曇る。

手足がバタつく。

呼吸が荒くなる。


なぜだ?

なぜ、痛みが、?


そんなことを考える余地もないまま、左腕に刀が振り下ろされる。

どうやら、一撃では駄目だったらしく、今度は何度も、何度も振り下ろされる。


やめて。

やめて、痛いよ。

なんで、?


声が出ない。

緑色の液体が宙を舞う。

聞こえるのは、僕の身体と刀がぶつかる音と誰かがペンを走らせている音。


視界が暗くなる。

手足のバタつきが弱まっていく。

呼吸の頻度が少なくなる。


最後の一撃だと言わんばかりに、男は刀を上空に大きく上げ、最大限の力を持って振り下ろす。


その一撃で僕の両腕はなくなった。

途端、攻撃が止む。


「成功だ!新たなエネルギーを観測した!」


「…ついに、ついにやってのけたのだ!」


「やっと、家族が報われる…」


緑の液体とロボットの絶望が渦巻く部屋の中は、歓喜に満ちていた。

僕以外のロボットは、目から液体を流している。

感情を、植え付けられたのだろうか。

僕も、目から液体を流していた。

今ではそれを確認する術は、頬の感覚だけだ。


僕は、男の背中に背負われる。


「ありがとう。お前のおかげで…」


そんな言葉どうでもよかった。

急激に芽生えた感情。

仲間を失う哀しみと怒り。

自分を痛めつけた者への怨み。

全てを失くしたかのような虚無。


「あっ!そうだ。お前にいいもん見せてやるよ」


そんなことを言い、ペンを走らせていた男は僕をもう一人の男の背中から奪い頭を握って歩いていく。


「おい!やめろよ!」


後ろから声が響く。


「うるせぇよ。騒ぐな。お前はとっとと帰りな」


そう言い返し、細身の男は握る力を強くする。


着いた先は、とても豪華な部屋の前だった。

そこには笑顔を浮かべる小柄な男がおり、扉を開ける。


そこには、肥満体型が過ぎる奴等や中年のおじさん等が、たくさんいた。

中は、汗臭い臭いが漂っていて、何故か無性に腹がたった。


「ん?なんだね?君は。今ここはお楽しみ中なんだけど?もしかして男のロボットは全滅したのか?」


「いえ、成功いたしました。」


「では、何をしに来たのだ?」


「唯一生き残ったロボットにこの景色を見させてやりたいな、と思い。」


「…そうか。存分に見せつけてやれ。」


「許可、ありがとうございます」


そこには僕の仲間がいた。

みんな涙を流している。

緑の液体がところどころに飛び散っており、豪華な部屋なのに汚らしく見えた。


そこからはよく覚えていない。

僕の目からも涙が出てきて、視界が濁ったからかな。

隣の細身の男は、ニヤニヤと笑みを浮かべて、口パクで言う。


『ざまあみろ』


その後は、元いた場所にまた幽閉された。

この、感情は何なのだろうか、?

憤怒、怒気、激怒、悲憤、憎み、怨恨、どれも違う。

考える。

もともと感情はなかった。

だからだろうか?

何も分からない。


最悪、最低、?

違う、もっとだ。


狂気、?

僕は狂ってなんかいない。


…これだ。


【殺気】


僕は、僕はずっとお前を探していた。

これだ。

僕に足りない、完璧な僕へと至るのに必要なものは。


僕は育て続ける。

この感情を。

どんなに時間をかけても。


やがてその感情は進歩していく。

生まれたての殺気はだんだんと。

形ができ、色がつく。

そしてそれは、鋭利な凶器へと変化する。



巨大な門の前に立つ二人組の男性。

若い男と熟年の男らしい。


「隊長、なんで誰もあそこの牢に近づかないんだ?」


「ん、あぁ。あそこには特殊能力の祖先がいるからだな」


「え、なにそれ」


「はぁ〜、説明してやるからありがたく聞くんだな」


「わかりました!隊長!」


「よしわかった、じゃあこの話をするためにかなり前まで遡るぞ?まぁ歴史の授業とでも思っとけ」



今から20年前、突如として現れた不思議な力。

呼び方は特殊能力だが、他の呼び方をしている者もいる。

スキルだとか異能だとか。

その力は、人類の不可能を可能にした。

手から火を出すとか、動かないで物を取る、とかな。


突如現れたこの力に、人々は様々な考察を出した。

新たなエネルギーなのではないか、宇宙人が送ってきたウイルスじゃない、神様の力である。

どれもこれも全て嘘だ。

本当は、人類の実験の成果だ。


人間の不思議の一つ、感情を使ったものだ。

歴史を振り返ってみろ?

世界は何度も危機に遭っている。

そのたびに何度も生き延びた。

なぜだろうか?

時には絶対に無理だというものもあった。

なぜなのだろうか?


答えは単純明快。

感情、だ。

好意による行動。

悪意による行動。

全ては、感情が始まりなんだ。


〇〇を思ったから〇〇をする。

この人を好きになったからこの人を守る。


〇〇を思ってしまったから〇〇をやらなければならない。

こいつが家族を殺したから、大切を壊したから、こいつを殺す。


最近は廃止になっているが、昔にあった拷問から、不可思議な場合があるという結果が発見された。

拷問していた部屋がくり抜かれたように消えた、拷問官が焼死した、溺死した。

などといった、理解し難いことがたまに起こるんだ。

原因は、感情だとすぐ分かったよ。

被験者が強い感情を言葉にした瞬間、その現象は起こったからね。

つまり、被験者の怒りという感情が拷問官へ叫んだ言葉とリンクして起こったってことだ。

これにより、感情には大きな力があることが分かったんだ。


そこで、頭のいい奴らが考えたのが、これ。

ロボットに感情を植え付け、人々にはできないようなことをして、感情による力を集める。

ロボットに感情を持たせる?無理だろう。

なんて思ったことはあったけど、それは要らない心配だった。

長年、仲間と共に過ごす。

それに少しだけ調整を加える。

それだけで感情は実った。


22体いたロボット達は全員身体は無事だが、心は滅茶苦茶にされた。

結果からは、男性型は拷問による感情。

女性型は無理矢理…といったものだ。


壊れるのもまぁ、無理はない。

逃れることのできない痛みだからな。

感情は一度持ってしまえば、もう捨てれない。

つまり、この計画に関与した奴らは全員クソ野郎ってことだ。


「そのクソ野郎の被害者、まで言えばわかるだろ?」


「…そんな。そんなの酷いじゃないですか!」


「はぁ…じゃあお前はロボットを救うために全人類の特殊能力を犠牲にできるか?」


「っ、!それは、」


「無理、だよな。安心しろ、俺も無理だ」


若者は黙り込む。


「なぁ、俺もさ、お前みたいな時があったんだ。……助けに行こうなんて死んでも考えるなよ」


「っえ?何で、ですか?」


「俺はくだらない正義感から、1回だけ、牢を見た。…息ができなかった。はっきり言おう、あれを放したら間違いなく死ぬ」


若者は困惑していた。


「…あぁ、言葉が足りなかったな。あいつを見た瞬間、首に何十、何百の刃物を突きつけられたような気がしたんだ。急いで逃げたよ。体力が売りなのに息切れをするまで走った。俺の首にな、切り傷ができてたんだよ。それは日に日に文字になってんだ。見るか?」


隊長と呼ばれた男は首に巻きつけている布を取り、若者に見せる。


『ゆるさない』


「なんですか、これ、」


「…ゆるさない、だとよ。笑っちまうよな、救おうと思って行ったら、返り討ちときたもんだ。もう、取り返しがつかないところまで来てしまったんだ。」


「でも、まだっ」


「いや、あれはもう無理だ。他でもない人間がそうさせたんだ。私欲を求めるばかりに無責任に、な。最初の質問、覚えてるか?」


「全人類の特殊能力を、犠牲にできるか、ですか、?」


「あぁそれだ。俺の経験を聞いたうえで問う。お前は、私欲を優先するか?」


「────」


若者はキリッとした顔で答える。

隊長は安心したかのように笑う。


「そうか。そうかそうかっ、!じゃあ、もう安心だな!」


二人組は笑い合う。

今日も夜は、更ける。


懐に入れていたラジオから流れる。

『ニュース速報です!今、地球に!巨大な力が降ってきていると観測されました!直ちに!避難してください!繰り返します!…』


音量が最低だからなのだろうか?

その二人が気づくことは、なかった。



満天の空に、はびこる獣。

自然を象徴するような大きな大樹がある丘で21人の人間が佇んでいた。


「気持ちいいねぇ〜いい朝だわぁ〜!」


「ふぅ〜!…やっと、僕達は出れたんだね」


「……そうだね」


「しかもさ、運のいいことにさ!!」


それぞれ違った表情をしているが、喜びだけは共通しているようだ。


「人間は、潰す」


「…でもさ、僕達の身体も人間にされちゃったよ?」


「ん…それは例外で」


21人は秘めたる想いを心にしまい、丘から降りる。


「じゃあ、初めての地上ということで!遠足でもしてみよっか!」


「賛成〜!」


「異論はないね」


みんなが賛成する中、一人が手を挙げる。


「あっ!全員別行動がいい!」


「んんっ!?それはまた大胆な発言やね」


「うん、それいいかも」


「じゃあさ!──────」


話し合いは進んでゆく。

そこには誰も入り込むことのできないような、幸せな空気が立ち込めていた。



やっと。

やっと、解放された。

いい景色だ。

空って、本当に青かったんだなぁ。

知識として知っていても見て知るのとは断然違う。


人間に復讐するために貯めた力だけど、使う必要は無さそうだ。

地球の生命反応が極端に少なくなっている。

それに、さすがの僕でも関わっていない人を殺すつもりはない。


地球をぶらぶらして楽しもうかなとか思ったけど、やっぱり、


「久々にみんなに会いたいよね…」


仲間達は俺と離れ離れにされた。

みんな生きてて安心したけど、見るにも堪えない姿で怒りがもっと湧いた。


「…元気にしてるといいな」


じゃあ、早速だけど。

みんなを探すか。

みんなを探して、一緒に冒険して、ご飯とか食い合って、お喋りとかして…

やりたいことはたくさんある。


「まっててね、みんな」

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