第4話 相談

 斉木慧さいきけいは、このままではいけないと、何か対策がないか必死だった。


 バスケができなくなったら、どうすればよいのか。


 中学の頃は、学校のバスケ部には入らず、地域のクラブに所属していた。


 バスケを本格的に始めたのは、小学1年生。3歳の頃、父親とバスケットボールで遊んだことがきっかけ。


 中学のときは、ずば抜けていて、U15(15歳以下)の日本代表に選ばれるほど。


 このとき、慧を見てくれていたコーチは、高宮義孝たかみやよしたか


 高宮はA代表のコーチを務めたこともある。


 現在はバスケットボールスクールのコーチをやっているが、同時に指導者のための指導も行なっている。また、教育委員会にも積極的に情報発信している。


 高宮コーチは良かったな。高宮コーチは、今、何をしているだろう。慧は高宮のことを思い出した。


「はぁ……」


 慧はため息をつく。


 部屋の窓から空を見る。


 雲が多い。いろいろな形をした雲がぷかぷかと浮かんでいる。その中にバスケットボールのような円の形をした雲を見つけた。


「もっとバスケを楽しみたいよなぁ」


 慧の本音。


 誰が聞いているわけでもない。しかし、口に出して言わなければスッキリしないような気がした。


 この状況をどうにかしてバスケをおもいっきりしたい。そう思ったとき、慧は決めた。高宮コーチに相談しよう。


 慧は、高宮に電話をかける。LINEで連絡をすればよかったが、どうしてもすぐに相談したかった。


 まだ、仕事かな。慧はそう思いながらも早く話したくて、出てくれと心の中で願った。


「どうした? 慧! 久しぶりだな。何かあったのか?」


 高宮の声。


 慧は高宮の声を聞いて、ホッとした。途端に涙が溢れ出てくる。


「コーチ、助けてほしいです!」


 高宮は慧の声が震えていることにすぐに気がついた。


「もしかして例の件か?」


 高宮はまだ何も話していないのに状況を察した。


 実は城伯高校じょうはくこうこうのバスケ部の件については、高宮にも報告が上がってきている。


 なんとかしたいと高宮も考えているが、なかなか城伯高校バスケ部のことまで手につかなかった。


「悪いな、なかなか動けなくて」


 高宮は慧に何度も謝った。


 慧は高宮コーチのせいじゃないと言いたかったが、言葉に詰まってしまった。


 高宮は慧の言葉にかなり辛そうだと感じつつも、まずは状況を詳しく知ることが大事だと思った。だから、ひとつ提案をした。


「慧、スマホで良いから、隠し撮りできないか? 証拠がなければ何も始まらない」



 慧は電話越しにハイと答えて、電話を切る。高宮に救われた気がした。相談してよかった。樹にも事情を説明して協力してもらおう。バスケ部に希望が見えた。

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