第3話 心配

「ただいま」


 樹はため息をつきながら、靴を脱ぐとすぐに自分の部屋へと駆けていく。


「おかえり、最近、バスケできてる?」


 母親、村野恵美むらのえみが心配そうに声をかけた。


 樹は何も言わなかった。


 埼玉県立城伯高校さいたまけんりつじょうはくこうこうのバスケ部は、度々、問題になっていて、両親にも伝わっている。


 母親なら、バスケが大好きで何よりも熱くなり楽しそうだった息子が、つまらなさそうにしていると気になってしまうもの。


 しかし、余計なことを言わないほうがいいと思って、黙って家事をする。


 樹はベッドに横たわり、スマホを見つめる。


 兄と姉から連絡が来ている。


 樹には兄の拓海たくみ、姉のかおりがいる。


 拓海はNBAに挑戦するため、アメリカの大学へ、香は日本の大学でバスケをしている。


 恵美は樹が3歳の時に離婚。それ以来、ひとりで、3人の子供を育ててきた。


 お金もかかるだろうに、兄弟3人ともバスケをやらせてくれている。


 樹は恵美に感謝しかなかった。


 せっかく、バスケをやらせてくれているのに、谷牧のせいでバスケすらできない状態。


 このことを心配していたのは、恵美だけではないようで。


 拓海も香もLINEしてくれた。


 樹は拓海と香にも感謝した。


 大丈夫とは言えないけれど、心配はかけたくない。


 樹はどうやって返信しようか考えているうちに、いつの間にか寝てしまった。


 毎日、谷牧に振り回されて疲れるな。


 樹はそう思いつつも、希望も抱いた。


 いつかまた、楽しくバスケができると。


 そのためには、学校が動いてくれないと無理。もし、どうにもならないときは、バスケができる高校へ編入するか。


 樹はそんなことまで考えるようになった。

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