第8話 夢の世界の番人ザイドロン

==夢の世界==

 知恵の宝庫である図書館。

 そこは夢の中の世界。

 だが、ドリームは今までその図書館から出た事がない。

 なぜか興味がなかったと言えばそうなのかもしれない。


 今では無数に本が貯蔵された図書館、そこにはドアがある事に気付いていた。

 その外に出た事は何度かある、だがそれはウェイバリアンとして生きていた時の記憶であり、ドリーム自身が出た事はない。


 恐る恐る、ドアノブを回すと、ゆっくりとドアが開いていく。

 光が差し込んでくる。

 そこに広がっていたのは壮大で無限の可能性に溢れる世界。

 

 岩肌と鉄肌のようでいて、沢山の鉱石が採掘出来るであろう山。

 多種多様な種類が豊富な樹木が立ち並び、色々な用途に使用出来るであろう木材が採れる森。

 武具を製作する時に必要であろう水が取れる、川や海。

 海にはきっとまだ見ぬ素材が隠れていそうだ。


 不思議と生き物の姿はなかった。

 モンスターも動物も虫の姿は一切なかった。


 この世界が生きていないというのは感じていたが、ただ素材となる物が無数にあるだけであった。


 まるで物だ。


 この世界は物そのものだった。

 まるで、かつて勇者が持っていたとされる伝説上のアイテムボックスの中だ。

 アイテムボックスの中にこのような自然が形成されたらこんな感じになるのではないか。


 確か、アイテムボックスの中には生き物を入れる事が出来なかったはずなのだから。


「まさかな」


 これが新しいアイテムボックスの概念だとしたら。

 夢の中で指先で物を操る事が出来るように、この世界にあるものをアイテムボックスのように取り出す事が出来るのではないだろうか。

 

 だから、あのドラゴン娘のデルはザイドロンを目覚めさせろと言ったのではないか。


 ウェイバリアンとしての記憶が全て戻ってきている訳ではない。

 隠された記憶の中に、もしかしたら、ザイドロンの記憶があるはずだ。


 本能だ。

 自分自身が何を求めているのか。

 それが何なのか。岩肌で、無骨でごちゃごちゃしている山奥に向かって、ドリームは歩き出した。


 この夢の世界では疲労という概念がない、さらにはお腹が減るという概念もないし、成長と言う概念もない。

 

 ただそこにあるがままであるという事なのだから。


 歩き続ける。

 ゴールはあの山までと、自分自身にドリームは激励していた。

 

 何時間歩いただろうか。

 太陽が昇り、太陽が沈み、月が昇り、月が沈む。

 何度も何度も見てきた光景なのに。

 心が何かを求めていた。

 友だ。

 友なのか、まるでザイドロンがドリームの唯一の理解者である事を本能が知っている。


 山のあちこちを見ていた。

 瞳から温かい液体が流れてきた。

 涙だった。

 泣いていたのか自分は。

 ドリームは懐かしさに胸が苦しんだ。


「知っているこの山を」


 何度も歩いた。

 そこには一つ目のサイクロプスという巨人がいた。

 ウェイバリアンの隣にはそいつがいつもいた。

 彼はウェイバリアンを理解し、弱すぎるウェイバリアンの友だった。


「なぁ、ザイドロン、そこにいるんだろ」


 歩いた。歩いた。心臓が脈動する。

 その赤さびた岩のようなものが転がっていた。

 大きさはドリームの10倍はあるであろう岩だった。


 その岩の中にザイドロンが眠っているはずだった。

 彼はこの世界にいる。

 この世界の岩の中で眠り続けている。


 この世界が夢の世界だという自分自身の認知は間違っているのかもしれない。


「この夢の世界も1つの異世界と言う事か」


 全てを理解出来る訳ではない。

 それでも、この岩を破壊しないといけない。

 ならどうするか。

 岩に手を当てる。

 心の声に問いかける。

 顔が歪んだ。

 涙があふれる。


「ザイドロン! お前が必用だ。ウェイバリアンとして生きていた時、お前はいつも僕を助けてくれた。これからも頼む。ザイドロン、お前は僕の友達だろ、そして、僕の」


 ピキピキッ、岩肌にヒビが入った。

 少しずつだけど、岩に亀裂が蛇のようにのたくりまわっている。

 無骨な岩が破壊されると。

 そこには巨大なサイクロプスの女性が立っていた。

 ザイドロン・カナリエ。

 ウェイバリンの友達であり、そしてウェイバリアンの許嫁でもあった。


「僕も、サイクロプスだった。だけど、僕は、人間になってしまったんだ」


 ドリーム・ウェイト。今では人間だ。

 サイクロプスと人間の狭間に生まれた、亜種の人間。それがウェイバリアン。

 だから人間として一番最初に武器を発明した。

 そこにはサイクロプスとしての力も隠されていたのだから。


 今では完全なる人間に転生してしまっているが。

 きっと、ウェイト家にはサイクロプスの血が流れている。


「久しぶりね、ウェイバリアン」


 彼女はゆっくりと目を覚ました。

 ザイドロンはこちらの心の声に問いかけるように1つ目をこちらに向ける。


「ああ、久しぶりだね、僕は今、ドリーム・ウェイトと名乗っているんだよ」


「良い名前だね、そうか、ここが異世界だという事は知っているね?」


「うん、なんとなく」


「ここは勇者が使用していたアイテムボックスと繋がっている異世界だ」


「なぜ、僕がその勇者が使用していたとされるアイテムボックスの中に入れるんだろう」


「それは君の子孫が関係している。その子孫の一人がこの世界をアイテムボックスと言う物に作り替えたが正しい。異世界そのものをアイテムにしてしまったんだよ」


「その時も、僕はウェイバリアンとして戦ったのかな」


「いや、その時は、君は1人の賢者として戦っただけだ」


「そうか」


「その時も、私はただ見ている事しかできなかった。だけど、久しぶりに目覚めたよ、さてと作るんだろう?」


「ああ」


「武具を沢山作って、世界の崩壊を防ぐんだろう、君は1つの世界を救ったくらいじゃ満足いかないだろうしね、その世界が滅びかけているのなら、なおさらね」


「あはは、僕は1つの世界を救ったんだろうけど、それは賢者としてだったんだろう?」


「1つ目でそれを見ていたけどね」


「なぁ、ザイドロン、また最高の武具を造ろうよ一緒に、そしていつか君をこの異世界から解放してやるんだ」


「それは期待していようかな、ロイやドーマス君と合ってみたいしね」


「そうだろう?」


「メレルって道化のような女の子も面白そうだけどね」


「メレルは、いつも面白んだ。彼女はどこに行ってしまったんだろうか」


「メレルは、光の世界だよ、光の異世界だ。いつか戻ってくるだろうさ」


「そうだね、そうだ。この世界の……」


 ドーマスとザイドロンは何千年分かの知識を分かちあった。

 それでも語り終えるのには計り知れない時間を要した。

 それは夢の中の異世界という時間を数日消費したのだから。

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