第9話 生きている城壁

==ワールドダンジョン==

【ステージ③ 玄武】


 目の前に広がるのは城かと思える化物。

 亀のような甲羅を持ち、幾重にも広がる髭を持つ。

 鉄壁の防御力を誇る。伝説上の玄武であった。


 そいつはのんびりとこちらを眺めると。


 生身の部分を甲羅の中にしまった。

 渦を巻くようにして回転を始める。

 そのままロイの方向に向かって、発射した。


 避ける暇もなく、ドラゴンアームの拳を繰り出した訳なのだが。

 まったく拳が通用せず。

 伝説上に存在するとされるオリハルコンにぶつかっているみたいだった。

 

 体が弾き飛ばされて、建物と言う建物に激突する。

 体がくの字に曲がり、血反吐を吐きながらもがくと、隣にドラゴン娘のデルがやってくる。


「あれは鉄壁という力じゃ、欲しいじゃろう、あれは精神力が続く限り圧倒的な防御力、いわばオリハルコン並みの防御力を得るという事なのじゃよ」


「あれをどうやって破壊しろと?」


「生身を狙ってもほぼ鉄壁が通用している。外が無理なら中じゃな」


「どういう」


「力の与え方を考えてみるがよろしい」


 ロイは右手と左手をグーパーさせながら、精神統一をしていく。


「自分に何が出来るだろうか?」


 自分自身に問いかける。

 動く城のような亀。

 さらには鉄壁と言う力で圧倒的な防御力。

 あれを破壊するのは無理。

 だとしたら、何が出来るかと言うと。


 とても簡単な事だ。


 衝撃を中に伝えさせればいい。

 それを何回も何回も繰り返せれば。


 右手と左手をグーパーさせながら、さらに思考を繰り返していく。


「ふぅ、やりますか」


 体をくの字にさせていた。それはあまりにも痛かったからだ。

 だが、今思えば、何度も死にかけて、何度も立ち上がって、両腕が機能しなくなった時でさえ、戦い続けた。


「あの時の痛み、あの時失った仲間達。このくらいの痛みに耐えられないようじゃ、笑われちまうな」

「それは同感だな」


 デルが小さい胸を威張り散らすかのようにして胸を張った。

 

 右手と左手を構える。

 頭の中で何度も試行錯誤していく。

 

 呼吸を整える。

 心の中から色々なものを吐き出していく。


 カーゼル村に捨てられた。

 どこかの両親がどこかの母親がどこかの父親が、ロイを捨てた。

 それは愛情が無かったのだろうか?

 それとも食べていくのに子供が必用無かったのだろうか。


 ジョド村長が父親代わりとなり、色々な事を教えてくれた。

 

「ふぅ、この髪の毛なんとかしないとな」


 心を静めていくと、黒い髪の毛が昔から緑色になっていく。

 この原理は不明なのだが、それは黒い瞳が緑の瞳にもなっていく。

 まさか、ドラゴン娘の緑色の髪の毛とか緑色の瞳とか、額にある緑の宝石とか。

 自分にもドラゴンの血でも流れてるのかな。


「まさかな」


 そんな事を思いつつ。

 次なる追撃に構える。


 玄武がまた発射した。

 体が弾き飛ばされる。

 スピードが間に合わない。


 体が落下しながら。

 激痛にのたうちまわる暇すらなく。

 浮遊と縮地を発動させていく。

 右手を構えながら。


 次なる発射を待つ。

 また体が弾き飛ばされる。

 骨が折れている気がした。

 内臓と手は無事だが、体のあちこちから血が流れている。

 頭だってよく無事なのだと思った。


「ふぅうふぅう」


 痛みを忘れる事は出来ない。

 それでも、やらねばならない。

 目の前の敵を倒すために。


 拳を繰り出した。

 渦のように巻きあがる甲羅。

 回転する衝撃と、拳が繰り出される衝撃があわさる時。


 玄武が消滅していく。

 拳は外側を破壊するのではなく、内側の内臓へと衝撃を飛ばして破壊した。


 何度も呼吸を繰り返す。

 意識が途絶えたのはその時だった。


【おめでとう、ステージ③クリアだね、鉄壁の力を与えてあげよう、最後は青龍だよ、君と同じ力を持つものだ。最後はダンジョンマスターである俺が相手してあげたいんだが、その怪我だと無理だから、回復させてあげよう、ありがたく思いたまえ、勇者セイリュウ、それが俺だ】


 眼が覚めた。


 夢は見ていなかった。

 デルがこちらを見ている。


 目の前には蒼い髪の毛をしている男性が立っている。

 右手にはドラゴンのような飾りがされている剣が握られている。


「さぁ、君も剣を手に取りたまえ」


「お前が青龍なのか?」


「そのようだぞ、こいつは龍そのものじゃな、ドラゴンと龍は相対しているようなものじゃ、このワールドダンジョンはお前がいるからカーゼル村に現れたようじゃな」


 デルが説明してくれる。


「さぁね、それは勇者としての気まぐれかもしれないし、違うかもしれない、それでも、かつて魔王を倒した俺は死後、このダンジョンにこもっていた訳だ。生きている理由もなくね」


 その男はにへらと笑って見せる。


「俺のどうでもいい人生観でも聞いてくれるかい?」


 勇者セイリュウは語りだした。


「始まりは青龍を使役してしまった事だよ、この剣のね、生きている剣なんだよ、君がドラゴンのアームなら、俺は龍の剣て所さ……」


 蒼い髪の毛を格好つけながら、払って見せると。

 また勇者セイリュウはにへらと笑った。


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