第7話 食物連鎖
==ワールドダンジョン==
【ステージ② 朱雀】
相変わらず無頓着なワールドダンジョンの声を聞きながら。
二度目となる見慣れた未知の廃墟の建物を眺めまわして。
ロイは目の前に突如として君臨する赤い鳥のような朱雀と呼ばれる伝説上のモンスターと相対していた。
朱雀も、白虎と同じくらいの大きさでありながら。
空を高速で飛翔する。
朱雀は羽を羽ばたく事もなく浮く事が出来ていた。
「あれは、浮遊という力じゃのう、羽の力も関係なく浮く事が出来るのじゃ」
「それも欲しい力だな」
「なら、倒すしかあるまいな」
朱雀の赤い翼から無数の羽が飛んできた。
ロイは羽の猛撃に対して縮地を何度も発動させる。
縮地に縮地を重ねる事で、あちこちに瞬間移動しているように見えるが、ただ距離を縮めているだけ、それでも羽の猛撃を全て避け続ける事が出来た。
「次はこっちの番だ」
地面を蹴り上げる。
地面が陥没すると、ロイの体は空高く舞い上がる。
風圧が体にかかりながら、髪の毛がざっくばらんにはためいて。
空中でさらに縮地を発動させる。
かつて白虎がやったように、朱雀の背後に回る事に成功する。
ドラゴンアームを構えると、ただ朱雀の背中を貫通するように縮地をさらに発動。
ドラゴンアームの緑色の鱗に包まれた両腕が朱雀の背中を貫通した。
一瞬で何もかもが終わると、朱雀が消滅していく。
【おめでとう、ステージ②クリアだね、浮遊をくれてやろうか】
体が落下を辿る中で、浮遊という力を得たので、それを発動させてみる事にした。
体が空に浮遊し続けていた。
精神力が永遠に続く限り浮遊し続ける事が出来るみたいだ。
「さすがは母上が選んだ男じゃて、さてと、次にいってみようか」
【ステージ③に挑戦しますか?】
「もちろんだ」
ステージとワールドダンジョンは言っているが、舞台は変らずのまま。
見た事もない建物と、四角い乗り物、後は多種多様なオブジェクト。
この世界はかつて終わった世界なのかもしれない。
それがどのような世界なのかは知らないが。
★
==カーゼル村【山森】==
ドーマスは森の中に悠然と立っていた。
かつて両親がここで巨大なクマに殺された。
あの頃は太刀打ちできずに逃げる事しかできなかった。
とてつもなく情けないと思った。
今の自分ならなんとかなる。
ちょうど、冒険者ギルドのブラッドリーさんが教えてくれた。
「今のドーマスなら、森の主を倒す事が出来る。ブラッディグリズリーはもっと成長した。今では群れを成している。冒険者の悩みの種だ。倒せるかドーマス」
「そうだな、やってみようか」
ドーマスは即答していた。
あいつには借りを返さないといけない。
両親を奪われた借り。
それは、自然の摂理だという事を、ドーマス自身も知っている。
ブラッディグリズリーを倒さない限り、何もかも解決しない気がする。
時間は夜。
空は満月の空。
捕食者の瞳が光る。
赤い目が次から次へと森の深淵に怪しい蛍のように光出す。
1体ではない、2体でもない、10体だ。
一番巨大なブラッディグリズリーがこちらを獲物と判断して睨みつける。
「やぁ、君、殺しに来たよ」
全身が泡立つ。
そこには既に怒りと言う物は存在しておらず、あるものは獲物を狩るという本能に従う狼人間としての力そのものであった。
銀神の鎧が体を圧迫する。
心臓がドキドキしていくと、全身が狼人間になっていく事が分かる。
満月の深夜、時間にして0時くらいにならないと全ての狼化が終わらない。
狼化になると、圧倒的な飢えにさらされる。
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオ」
全ての本能に掛けて、遠吠えを上げると。
ドーマスはかつて両親が死んでいた森の中の草原の大地を蹴り上げた。
全ては一瞬で片付いた。
ブラッディグリズリーが遠吠えを上げて、こちらに攻撃を仕掛ける前に。
四足歩行で、動いたドーマスの方が早かった。
1体のブラッディグリズリーの頭が飛んでいった。
転がっていく頭を見ながら、隣のブラッディグリズリーが驚愕していた。
その時には心臓を右手で握りつぶされていた。
血しぶきが舞い上がる。
そこには戦士としての戦いではなく、捕食者としての虐殺でしかなかった。
ブラッディグリズリーがドーマスに対して殺すという意識を向けるだけで、彼等は無残には肉の塊と化していく。
ブラッディグリズリーの主はこちらを睥睨して見つめている。
ドーマスの口は真っ赤に染まりながら、獲物の血肉をじんわりと味わって捕食している。
「なぁ、お前、食べられてーか」
「ぐるる」
「ありがとな、俺に弱さを教えてくれて」
ブラッディグリズリーの主の頭が落下していた。
ドーマスの右手には巨大な頭が握りしめられている。
「お前の頭喰らってやるよ」
ドーマスはその場で、ブラッディグリズリーの生肉を食い始めた。
涙が流れてきた。
両親はこいつに負けて食われた。
食われた後の死体をドーマスは埋葬した。
どれだけ空しかった事か。その時空は満月に照らされていたのだから。
赤黄色くて、不思議な満月だった気がする。
今日もそんな満月だ。
「なぁ、うめーな、父ちゃん母ちゃん」
ブラッディグリズリーの肉体を食らいながら。
そんな事を覚えていた。
【食えば強くなるぞ、お前の力はそんなものだ】
「なぁ、銀神、人の意識に入るのはやめてくれないか」
【かつて、銀神とは銀色の毛をした1人の狼だった】
「なぁ、銀神、その話聞かせてくれ」
【それが神となり、世界を救うために戦った1人の女だった】
「ああ」
【そいつは仲間を食らい、家族を食らい、そして何もかも食らった。彼女は力を得て絶望を知り、世界を救った。それだけの話だ。その力がお前にも備わっているだけだ。だが、お前は、仲間を食らうな。お前は肉を食らえ、肉を食らえば強くなる。それが狼人間としての力だ】
「銀神、これからもよろしくな」
【ふ、今日は満月だからな、色々と語り合おうぞ】
銀神という女性の神様は、ドーマスの脳内で沢山の事を語った。
それはまるで遠いい子孫に伝えるかのように。
ドーマスは真剣に聞いていた。
銀神はなぜ笑って話ているのだろうと思った。
それだけ複雑で辛辣な会話だったからだ。
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