第51話 就寝②
「…お休み…。ホントにいつ以来だろ…。あんなこと言ったの…」
脱衣所を出る時に言った言葉。
お休み。
こんなの当たり前の言葉だ。驚くような言葉じゃない。
…だけど…。
何だか久しぶりな感じで。
何だか懐かしい感じで。
そして。
「…何だか初めてな感じがする…。…初めてじゃないのに…」
わたしは、小さくそう言っていた。いつ以来なのかを、もう思い出せないからなのか。何故かそんな感じがしてしまう。
それだけじゃない。
なし崩しとはいえ、誰かと名前で呼び合うようになった。
誰かの作った食事を美味しいと感じた。
どれも久しぶりで懐かしくて。
そしてどれも初めてじゃないのに、初めてっていう感じがする。
全てを失ったからなのか。
全てを捨てたからなのか。
それとも孤独を選んだからなのか。
分からない。
こんなことを思うのは、本当に初めてだ。
…だけど…。
『そんなの、わたしの目的が叶えば、全部無意味になる。そんな気持ち、全部無意味になる』
そう。
わたしの目的が叶えば。
全部。
「…レイナさんに、ひどいこと言ったかもな。…あんなこと言っちゃって…」
わたしは、思わずそんな言葉が出た。
「…一体、何人の人を垂らし込んだんだか…」
浴槽を出た時、わたしはレイナさんにそう言ってしまった。
宿舎を案内してくれたのに。レイナさんが、どういう人なのかも分かってないのに。アイリスからも、レイナさんを悪い感じで思ったりするなって言われてたのに。
だけどわたしは、言わずにはおれなかった。あんなことされた分、余計に。
そういえば。
『レイナさん。顔赤かったな。やっぱり逆上せたのかな?』
なんかアイリスと騒いでて、何だかうるさいから、思わず静かにしてって言って。
その後、アイリスとシルヴィアが浴槽から出て、レイナさんの方を見たら、何だか顔が赤かった。
だから気になって、翻訳機を耳に着けて、レイナさんに「逆上せたんですか?」って聞いたら、何だか慌てた感じで、レイナさんも浴槽を出た。一体どうしたんだろ?やっぱりちょっと逆上せたのかな?本人も「そうかもね」って言ってたし。
『だけど、アイリスはそうじゃないって感じしてたな。シルヴィアもだけど。翻訳機外す時、何かそんな感じなこと言ってたし』
「まぁいいか。そろそろ寝よう」
そう言うとわたしは、翻訳機を耳から外して、ベッドの上に置いてあるケースに入れた。
そのケースには、ベッドに付いている差し込み口に取り付けたケーブルが繋がれている。そのケーブルは、翻訳機の充電ケーブルだ。
わたしは電気を消して、ベッドに入った。
そして。
『やっぱり今までの制服よりいいな。この部隊の制服』
わたしは、壁のハンガーに掛けてあるメテオ・ビーストの制服を見てそう思った。
そしてわたしは、そのまま眠りについていった
『こんな静かな気持ちで寝るなんて』
それは、また久しぶりで懐かしくて。そして初めてじゃないのに、初めてなような感じだった。
そんな気持ちで、わたしは眠りについていったのだった。
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