第48話 浴場④

「…やっちゃった?…わたし、またやっちゃった?…」

 浴槽に身体を浸からせたレイナがそう言うと。

「知るか」

「うん。知らない」

 アイリスとシルヴィアは、同時にそう言った。

「大体またって何だよ?またって?お前、瑞穂に何かしたのか?」

「うっさい」



 ガシッ。



 バシャッ。



 ブクブク。



 そう聞いてきたアイリスの頭を掴んで、レイナはアイリスの顔を、湯船に突っ込ませた。



 バシャンッ!!

「てめえ!!いきなり何すんだ!!」

 レイナの手を振り切って、顔を上げたアイリスが、大声を出してそう言った。

「黙れ。あんたが男だったら、息止まるまで顔浸けてるトコよ。よかったわね。一応女で」

「んだとぉ!!」

 すると。



 ジッ。



 身体を洗っている瑞穂が、それをじっと見ていた。



 そして。

「静かにして」

 瑞穂はそう言うと、身体を洗うのを再開した。瑞穂は今、翻訳機を外している。外す時、「話しかけないように」と言っていたので、こっちが何を喋っているのかは分からないはずだ。

 だけど何か騒いでいるのは、見れば分かるんだろう。そして自分たちは、翻訳機を着けて浴槽に入っている。だから自分が話しかける分には困らない。その上での言葉だろう。

「二人とも怒られた」

 バシャッ。

 そう言ってシルヴィアは、浴槽から立ち上がると。

「じゃあ、私も身体洗うから」

 シルヴィアはそう言うと、浴槽から出て、洗い場の方に向かっていった。

 バシャッ。

 そしてアイリスも、浴槽から立ち上がると。

「レイナ」

「何?」

「瑞穂にお前のこと、悪い感じに思うなって言っといた。だけどしばらくは、あんまいい感じには見れねぇだろうな」

 アイリスが、レイナを見てそう言うと。

「あんたが余計なこと言うからでしょ」

「ホントのこったろ。先に知っといた方がいいのと、後から知っといた方がいいのがあんだよ。ってか、お前の場合、ある意味自業自得って感じがすっけどな♪」

 ニンマリとした顔で、アイリスはレイナにそう言った。

「あんたねぇ。もう知ってるでしょ。わたしは…」

「あたしん時みたいな喧嘩にならねぇようにな。まぁ、あたしん時とは違う理由でそうなるかもな。何かそんな感じする」

 アイリスは、瑞穂をじっと見てそう言った。そして。

「じゃあ、あたしも身体洗うわ。それじゃあな」

 アイリスはそう言うと、浴槽から出て、洗い場の方に向かっていった。

『…瑞穂に喧嘩吹っ掛けたあんたが、瑞穂のこと、今一番分かってるみたいなこと言うんじゃないわよ…』

 …だけど…。

『…何か悔しい…』

 こんな気持ちになるのは初めてだ。レイナはそう思った。

『…メアリーさんからのお説教。忠告でもあったけど。ちゃんと忘れないようにしよ…。わたし、最底辺の位置になってるみたいだし…』



「…一体、何人の人を垂らし込んだんだか…」



 瑞穂の、あの言葉。あれを聞いたら分かる。自分が最底辺の位置になってるってことが。瑞穂の中で。



 …でも…。



『…そう言った時の瑞穂の顔、何か…』



 レイナはそう思った。ああ言った時の瑞穂の顔の方が、自分にはきついものを感じた。あんなこと言われたことは何度もある。だからそう言われたことには、あまりショックを感じない。

「…とにかく最底辺に置かれたことは確かだな。あの様子だと…』

 だけど自分は、垂らし込むなんて真似をしたことは一度もない。そんなの自分が一番嫌うことだ。そんなことするヤツにろくなヤツはいない。男でも女でも。

『…それにわたしって、どっちかといえば…』

 まぁいい。止めよう。レイナはそう思った。



 …だけど…。



































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