第46話 浴場②

「瑞穂」

「何?」

「あんまレイナのこと、悪い感じに思ったりしてやるな」

 浴槽に入っているわたしに、隣にいるアイリスがそう言ってきた。

「別に。ちょっとイラッとしただけだから」

「そっか。それならいい。どっちにしろ、あたしん時よりマシだ」

 わたしの言葉に、アイリスはそう答えてきた。

「レイナさんと何かあったの?」

 わたしがそう聞くと。

「取っ組み合いの喧嘩したんだって。私が来る前だったから、よくは知らないけど」

 アイリスと同じように、わたしの隣にいるシルヴィアがそう言った。

「そう。わたしの時みたいに模擬戦とかやったの?」

「ああ。取っ組み合いの喧嘩した次の日にな。隊長が、大佐から許可もらってな」

 わたしの問いに、アイリスがそう答えた。その辺は、わたしとは違うな。わたしのは許可無しだったし。

「で、どっちが勝ったの?」

「レイナが勝ったって」

「うるせぇ!!言うな!!」

 シルヴィアの言葉に、アイリスは大声を上げてそう言った。まぁ、どっちでもいいけど。言ってみただけだし。

 すると。

「まぁ、色々あったけどよ。あたしが思ってたヤツとは違うってことは分かった。それに関しては、お前と一緒だ。瑞穂」

 アイリスが、わたしにそう言うと。

「でもアイリスの言ったことは本当。後、男の人をいたぶって楽しむドS」

 シルヴィアが、わたしにそう言ってきた。

「まぁ、あいつが、ホントはどういうヤツかの説明はしねぇ。そういうのは自分で分かるしかねぇ」

『…確かに、ね…』

 アイリスの、その言葉を聞いて、わたしはそう思った。



 結局、その相手がどういう人間かを判断するのは自分。



 それで後悔することになっても、それは自分自身の責任だ。誰かのせいにも、その相手のせいにも出来ない。



「…とりあえずは、あんまり印象は良くないかな…。…宿舎の案内してくれたのに何だけど…」



 ……それに………。



「あんまり気に食わねぇ時は喧嘩しろ。もしくは、あたしん時みたいに、模擬戦吹っ掛けてやれ。そん時は、お前が勝つ方に賭けてやるからよ♪」

 アイリスが、ニンマリとした顔でそう言ってきた。

「言ったでしょ?あんな模擬戦、もうお断り。相手が誰でもね。…まぁ喧嘩くらいはするかな。養成所の時みたいに…」

「へぇ。お前、そういうことすんだ。なんか意外だな」

 …意外、ね…。

「…時々だったけど。いつもわたしから仕掛けてたかな…」

 そう。ディアナ大佐も言ってたけど、わたしは時々、養成所時代、生徒と揉め事を起こしてた。そして仕掛けてたのはわたし。

 その相手に、何かを言われたわけでも、何かをされたわけでもない。



 …だけど我慢できなかった…。



 …だって…。



「ヘっ。さっすが、あたしとあれだけやり合っただけあるな。やっぱそんぐらいじゃねぇとな♪」

 ポンポン。

 アイリスが、わたしの肩を叩いて、ニンマリと笑ってそう言ってきた。

「だけど補習は受けたよ。ちゃんと。反省文は拒否したけど。その分、補習の量は上澄みされたけど」

「そこはアイリスとは違う。アイリスは、そんなの起こしても、補習も反省文も拒否してたって聞いた」

「うっせぇ。シルヴィア。黙れ」



 すると。



 ガラン。



 浴場のドアが開いた。



 そして。



「お待たせ」



 そう言って、レイナさんが入ってきたのだった。






















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