第45話 浴場①

 瑞穂が、食堂を出た後。



「…あいつ、全然笑ったような顔見せねぇな。歓迎会の時もそうだったし。そっちに関しては、シルヴィアと同じか…」

「色々とあるんだろ。シルヴィアとは、また違った意味でな」

 ラングの言葉に、シュナイダーはそう言った。

「何だか勿体ないですね。あんなに可愛いのに」

 ブリッツがそう言うと。



「ブリッツ」



 いつの間にか、シュナイダーたちのテーブルに来たレイナは、ブリッツを睨み付けてそう言うと。



 ガシッ!!



 バンッ!!



 ブリッツの頭を掴んで、ブリッツの顔をテーブルに思いきり叩きつけた。

 そして。

「瑞穂に色目使ったら、あんたの目ぇ抉り出して潰すよ。瑞穂に近づいてもよ。あんたみたいな汗臭いヤツの匂い、瑞穂に付いたら、瑞穂のいい匂いが台無しになるから。その時はあんた、命ないわよ」

 グリグリ。

 レイナは、ブリッツの頭を掴みながら、ブリッツの顔を、テーブルに擦りつけながらそう言った。

「…わ、分かりました…」

「気ぃつけるのね。次はこんなもんじゃ済まないから」

 そう言うとレイナは、ブリッツの頭を離して、アイリスたちがいるテーブルに戻ると、自分の席に座った。

「…わたしの印象、最悪になってんじゃん…。…あの様子だと…」

 レイナが、シュンとした顔で、小さくそう言うと。

「…あたしん時とか、マジ違うな。あん時はそんなんじゃなかったのによ…」

 ゴクゴク。

 アイリスは、ジュースを飲みながら、レイナの様子を見てそう言った。

「うん。その時は取っ組み合いの喧嘩になったらしいね。私は知らないけど。私がここに来る前だったし」

 ゴクゴク。

 シルヴィアは、ジュースを飲みながらそう言った。


  ***************


「…大勢の人の中の一人になるつもりない、か…」

 部屋に戻ったわたしは、机の椅子に座って、天井を見ながら、小さくそう呟いていた。

『…それこそ、わたしが言えた義理じゃないのにね…』

 そして。

『…やっぱり、一人になると落ち着く…』

 コトッ。

 わたしはそのまま、机に自分の顔をつけた。

 アイリスたちと一緒に、夕食を食べたのがイヤだったわけじゃない。

 メアリーさんの料理が、美味しかったというのも本当だ。

 だけど、一人になると落ち着くのは。



「……孤独を選んだからだ……」



 わたしは、机に顔をつけながら、そう呟いた。



 孤独。



 全てを失って。全てを捨てて。そしてわたしが選んだもの。


 なのに…。


「…何で立て続けに、色んなことが起きるのよ…」

 ムクッ。

 わたしは、机から顔を上げて、椅子に背中を預けるように、また天井をじっと見た。



 メテオ・ビーストに配属されて、いきなり少尉に昇進。



 宿舎に行ったら、アイリスに絡まれて、模擬戦なんてやる羽目になって。挙げ句の果てに、最初の夜は、独房で過ごして。



 そして独房から出たら、いきなり歓迎会。



 アイリスやシルヴィアとは、なし崩し的に、名前で呼び合うことになって。



 ……そして………。



『…孤独を選んだわたしに、何でこんなことが立て続けに起きるのよ…。養成所に入って、軍に入隊してから今日まで、こんなことが立て続けに起こったことなんて、只の一度もないのに…』

 わたしはそう思った。こんなこと起きても、何も嬉しくない。



 だって。



 目的が叶えば、そんなの全然意味が無くなるんだから。



「…まぁいいか。お風呂に行こう…」

 スクッ。

 そう言うとわたしは、椅子から立ち上がったのだった。



「よぉ。瑞穂」

「アイリス」

 部屋から出てきたわたしに、アイリスが声を掛けてきた。その横には、シルヴィアもいる。

「タオル持ってるってことは、風呂行くのか?あたしらも行くトコなんだ」

 そう言ったアイリスの手には、タオルや下着が握られている。シルヴィアも同じだ。

「そうだけど」

「じゃあ、一緒に行こうぜ。どうせ風呂入るんだしよ」

『…やっぱり。そう言ってきたか…』

 何だか、そんな予感がしてた。アイリスに声を掛けられた時に。

「レイナさんは?」

 わたしがそう聞くと。

「メアリーさんにお説教されてる」

 シルヴィアが、そう答えてきた。

「お説教?」

「ちょっとな。ここじゃいつものことだしな。気にすんな」

 アイリスが、わたしにそう言ってきた。…いつものことって…。

「でも今回は、ちょっとだけにするって言ってた。メアリーさん」

「そういうこった。すぐに後から来っだろ。ほら、行くぞ。瑞穂」

 シルヴィアの言葉の後に、アイリスはそう言って、わたしの背中を叩いてきた。

『…ホントに立て続けにこんなこと…。一体何でなのよ…』



 そうして、わたしとアイリスとシルヴィアは、一緒にお風呂に向かうことになったのだった。
























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