第44話 新制服⑤

「女豹?何それ?」

 わたしは思わず、アイリスにそう聞いた。

 すると。

「…アイリス…」

「んだよ?」

「今の状況で、そんなの言うな」

 レイナさんが、アイリスを睨み付けてそう言ってきた。

 パクパク。

「別にいいだろ。第一、状況って何だよ?状況って?」

「で、どういう意味なの?女豹って?」

 おかずを食べながらそう言ったアイリスに、わたしは、再びそう聞いた。

「ああ、戦場でそう呼ばれてる理由から話すと、こいつの戦い方からだな。めっちゃ素早い動きで、狙ったHWMを倒していく様から、そう呼ばれてんだよ。場合によっては、格闘戦でぶっ倒していくしな。その様からも、そう呼ばれることになったんだよ」

 アイリスは、わたしにそう答えてきた。

『格闘戦?アイリスのライオットみたいに、カスタムとかされてるわけ?』

 その可能性は高い。第一、格闘戦仕様のHWMなんて見たことないし。そんなのと戦った経験もない。

 装備という形で、近接戦用の武器を装備したHWMとなら戦ったことがある。だけどHWMの主な装備は、ライフルや、アイリスのライオットが使っていたロングライフル。後はバズーカ砲とか、ガトリング砲といったような重火器くらいだ。他にも色々な装備やらがあるけど、基本的に、HWMの装備はそんな感じだ。

『…なのに格闘戦仕様って…。カスタムされてるにせよ、わたしより無茶な戦い方してそうだ』

 単独行動やらかす、わたしが言えた義理じゃないけど。



 …だけど…。



「次にプライベートで呼ばれてる理由な。こいつ、女にモテんだよ。かなりの数の女をオトしては付き合ってんだ。だからこいつ、プライベートでも女豹って呼ばれてんだよ」

 アイリスは、レイナさんを見てそう言うと。

「男の人より女の人の方が好き。恋愛対象は女の人。レイナはそういう人」

 シルヴィアが、そう言ってきた。

 


今の時代では、同性同士の恋人。同性婚は当たり前になっている。昔は一部の国でしか認められてなかったけど、今は世界的にそれが認められている。

 日本もそうだ。もっとも日本は、他の国よりかなり遅れてるって感じだ。世界的に認められていても、まだ日本では認知されてないって感じだし。まぁ、わたしもそんな感じだったけど。



『…恋人…か…。わたしにはもう、一生縁のない関係だな…』

 パクパク。

『…だけど女の人をオトしては付き合ってる、か…。…それって何人もの女の人と付き合ってるってことだよね…。…一人じゃなくて、何人もの人と…』



 …そんなのして、何が嬉しいの…。…何が楽しいの…。



 ……そんなの……。



「ちょっとあんたたち…」

 わたしの隣で、レイナさんがそう言った。

 ゴクゴク。

 わたしは、コップに入ったジュースを飲み干すと。

「ご馳走さまでした」

 手を合わせて、わたしはそう言うと。

 ガタッ。

 夕食を手に取って、わたしはテーブルから立ち上がった。

 そして。

「…わたし、そんな大勢の中の人の一人になるつもりないんで…」

 わたしは、レイナさんをじっと見てそう言うと、メアリーさんがいるところに歩いていった。

「…ちょっと、瑞穂…」

 レイナさんが、呼び止める感じでそう言ってきたけど、止まるつもりはない。そんな気分じゃないし。



「何だか不機嫌そうね。瑞穂ちゃん」

「いえ、気にしないでください」

 メアリーさんの言葉に、わたしはそう答えると、夕食を返却口に入れた。

 メアリーさんは、それを手にすると。

「綺麗に食べてるわね。歓迎会の時でもそうだけど、瑞穂ちゃんって上品ね。他の子たちは違うのに。特にアイリスなんかは」

 夕食の食器を見て、メアリーさんはそう言ってきた。

「そういうわけじゃありません。何だか自然とそうなったんです」

 わたしも昔は、汚いわけじゃないけど、そんなに綺麗に食べる方じゃなかった。養成所に入ってから、何だか自然とそうなった。軍に正式に入隊してからは、それが当たり前のようになった。

「メアリーさん」

「何?」

「晩御飯、美味しかったです。こんな顔で言われても、信じてもらえないでしょうけど」

 わたしは、メアリーさんにそう言った。

 美味しかった。それは本当だ。

 全てを失ったあの時から、わたしは何を食べても不味いとは思わなかったけど、美味しいとも思うことはなくなった。何を食べても、同じ感じにしか思わなくなった。

 全てを捨てて、こっちに渡って、養成所に入って、軍に入隊してからも、それは変わらなかった。



 だけど。


 美味しいと感じた。歓迎会の時と同じように。



『…何でそう感じるんだろ…。…今のわたしには、そんなの感じる必要ないのに…』

 だけどきっと、そう言ったわたしの顔は笑ってない。自分で分かる。だから信じてもらえないだろう。きっと。

 すると。

「大丈夫よ。声の感じで分かるわ。そう思ってるって」

 メアリーさんが、わたしにそう言ってきた。

 お世辞じゃない。本当にそう言ってる。軍に入って、色々な人に会ってきたからか、わたしにはそれが分かる。

「ありがとうございます。じゃあ、失礼します」

 そう言って、メアリーさんに軽く頭を下げると、わたしは食堂を後にした。
























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