第39話 宿舎案内⑤

「レイナさん」

「んっ?」

「何で、エレベーターの前にしゃがみ込んでたんですか?」

 エレベーターに乗って、上に戻っていく中で、わたしはレイナさんにそう聞いた。

「ベ、別に!!只、しゃがみ込んでただけ!!」

「…そうですか…」

 まぁ、どうでもいいけど。只、聞いてみただけだし。

 そして。

 ピタンッ。

「着きましたよ」

 エレベーターが止まり、ドアが開くと、わたしとレイナさんは、エレベーターを出た。



「ここが脱衣所。この先に何があるのかは、想像つくよね♪」

 脱衣所に着いて、中に入ると、レイナさんはそう言ってきた。

「そういえば、トイレとか洗面所の場所教えてもらったけど、ここはまだでしたね」

 脱衣所を見ながら、わたしはそう言った。地下に降りる前に、トイレとか洗面所の場所は教えてもらった。だけどここは、まだ案内されていなかった。

 洗濯機や乾燥機が置かれている。つまり洗濯や乾燥をする場所も、ここってことだ。

「レイナさん」

「何?」

「何でここを最後にしたんですか?」

 わたしがそう聞くと。

「やっぱここは最後に教えないと♪一番のお楽しみじゃん♪」

 レイナさんが、そう答えてきた。

『一番のお楽しみ、ね』

 そして。

 ガラッ。

「さっ。ここがメインの浴場。けっこう広いっしょ♪」

 浴場のドアを開けて、レイナさんはそう言ってきた。

「確かに。かなり広いですね」

 わたしは、浴場を見てそう言った。

 浴槽。洗い場。今までいた宿舎よりも、かなり大きめだ。シャワー室もある。

 すると。

「…ねぇ、瑞穂…」

「はい?」

「せっかくだし、お風呂入んない?一緒に」

「遠慮しときます」

 レイナさんの言葉に、わたしはそう答えた。宿舎を見て回るのが目的なわけだし、今お風呂に入るのは違う気がするし。夜に入ればいいだけの話だし。

「…そっか。残念…」

 レイナさんは、小さくそう言った。何が残念なんだろ?

「じゃあ、そろそろ出ましょうか。宿舎も一通り見て回りましたし」

「うん。そだね」

「ああ、一応聞きますけど、男子棟の方はいいんですか?」

 すると。

「あんなトコ、案内する必要なし!!」

 レイナさんは、即座にそう答えてきた。

「聞いてみただけです。行く理由もないですしね」

「そっ!!女子棟は男子禁制だし!!こっちに一歩でも入って来たら、即血だるまにするから!!」

『…血だるま、ね…』

「さぁ。じゃあ、そろそろ出よ」

「はい」



「案内ありがとうございました。レイナさん」

 脱衣所を出たわたしは、レイナさんにそう言った。

「じゃあ、わたし、部屋に戻ります。それじゃまた」

 そう言って、わたしが部屋に戻ろうとすると。

「…瑞穂…」

 レイナさんが、わたしに近づいてきた。

「まだ何か?」

 わたしがそう言うと。



 チュッ。



 レイナさんが、わたしにキスしてきた。口に。



「…えっと、その…」

 レイナさんは、顔を赤くして俯いた。

 そして。

「…じゃあ、これで…」

 そう言って、わたしは歩き出すと、部屋へと向かっていった。



『…何であんなこと…』

 部屋に向かいながら、わたしはそう思った。



  ***************



『何?…あの、あっさりした感じ…。…馴れてるとか、そんな感じじゃない…』

 レイナは、唇に指を当てながらそう思った。

『…それに何?キスした時の、あの感じ…。あんなの初めて感じた。…でも…』

 ガバッ!!

「やっちゃったぁ!!やっちゃったぁ!!ヤッバイ!!わたし、やっちゃったぁ!!」

 レイナは、その場にしゃがみ込んでそう言った。













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