第37話 宿舎案内③

 シュー--ッ。

 エレベーターに乗った、わたしとレイナさんは、宿舎の地下に降りていた。

 地下に何があるのかは、大体察しがつく。どの宿舎でも、そういう設備は、地下にされているから。



 …だけど、わたしが地下で、真っ先に連想してしまうものは…。



 すると。

 ピタンッ。

「はい。着いたよ。瑞穂」

 レイナさんの、その言葉と同時に、エレベーターのドアが開いた。

 そして、わたしとレイナさんは、エレベーターを出ると。

「次は訓練場ですか?」

 わたしは、レイナさんにそう聞いた。

「察しがいいね。その通り♪」

「まぁ、どこの宿舎でも、地下に訓練場がありますから」

 そう。どの宿舎でも、訓練場は地下に用意されている。もっとも、この宿舎に関しては、どういう訓練場になってるのかは分からない。何しろ、今までいた部隊とは、色んな意味で違うから。

 そしてわたしが、ふとある場所を見ていると。

「…瑞穂…」

「えっ?」

「…あんなトコ見ないでいいから。言っとくけど、あんなトコ案内しないから。絶対」

 グイッ。

 レイナさんが、顔を近づけてきて、そう言ってきた。

「分かってます。ただ、やっぱり目に映ると見ちゃうんですよね」

 すると。

「…あんなトコ、使わない方が幸せなんだよ…」

「…そうですね…」

 レイナさんの言葉に、わたしはそう答えた。



 あんなトコ、使わない方が幸せ。



 確かにそうだ。

 アレが使われる時は、いい気分がしない。軍人になってから、色んなことに慣れてきたけど、それでもいい気分にならないことはある。特にアレが使われる時は、未だにいい気分がしない。



 …だけど、それでも、わたしは…。



「はい。ここが訓練場。まぁ、他の部隊のトコと、そんなに代わり映えするものはないかな。一部を除いては」

 訓練場に着いたわたしに、レイナさんはそう言ってきた。

「一部?」

「すぐに分かるって」

 そして訓練場に入ると、わたしは周囲を見渡した。

 射撃場。トレーニングルーム。HWMのシュミレータールーム。どこの部隊の訓練場と、大して代わり映えしない。

 だけど。

「んっ?アレ何です?」

 ある一つのトレーニング機材と、HWMのシュミレータールームの一室に、何だか看板が立て掛けられている。

『…ええと…』

「ああ、アレはブリッツ専用って書いてあんの」

 立て掛けられている看板を見ていたわたしに、レイナさんがそう言ってきた。

「ブリッツ曹長が掛けたんですか?アレ?」

「違う違う。わたしらが掛けたの。アイツが使ったトレーニング機材とか、HWMのシュミレータールームなんて使いたくないから」

 わたしの問いに、レイナさんはそう答えると。

「だってアイツ、汗臭いんだもん。いっつも時間が空いたら、筋トレばっかしてんのよ。隊長たちの話だと、アイツの部屋、筋トレ用の器材ばっからしいし。ラングも言ってたのよね。『アイツの部屋、汗くせぇ匂い充満してて、もう行きたくねぇ』って。ああ、因みに、あの立て看板掛けることにしたの隊長なの。満場一致で決まった」

 レイナさんは、満面の笑みを浮かべてそう言ってきた。そういえば、アイリスも言ってたっけ。筋トレ馬鹿って。

「だけど酷くないですか?イジメですよ?」

 わたしがそう言うと。

「大丈夫大丈夫。ちょっとショック受けたっぽい顔してたけど、なんか逆にトレーニングし放題って感じになって、今やめっちゃ気に入ってんのよね。アイツ自身、『他の人は使用禁止』って立て看板作って掛けてんのよ。こっちとしては助かると言えば助かるけど、いい迷惑にもなってんよね。イヤ、マジで」

 レイナさんは、そう言ってきた。そして。

「そういうの嫌いなの?瑞穂?」

「…はい。まぁ…」

 レイナさんの言葉に、わたしは歯切れの悪い感じでそう答えた。



 …なのに、わたしは…。



 …あの時のわたしは…。



 すると。

「まぁ、わたしらだって嫌いだよ。そういうの。だけどそんな気持ち、最初から持ってるヤツなんていないよ。ってか、最初からそういう気持ち持ってますってみたいなヤツが、一番信用できないよ。偽善者って感じしてさ」

 どこかわたしの気持ちを察したような感じで、レイナさんがそう言ってきた。

「そういうものですか?」

「そういうもんなの」

「…そうですか…」

 そう言うとわたしは、射撃場の方に行くと、棚に置かれている拳銃の一つを手に取った。

「ちょっとやってくの?」

「はい。ちょっと気分を紛らわしたくなって」

 そしてわたしは拳銃を構えると、的の方に銃口を向けたのだった。











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