第34話 歓迎会⑨

 クレインシザード。



 わたしが、ここに配属される前の戦闘で相手をしたタトルコスと同様、ライオットより一世代前の機体だ。



「少尉が相手をしたタトルコスと対して変わらんかな。まぁどちらも、パイロットの技量次第で、今の世代のHWMと渡り合える機体だがな」

 シュナイダー隊長が、わたしにそう言うと。

「だけど今回は別だろ。パイロットがヘボだった。しかもろくな連携も取れねぇと来てる。編成も滅茶苦茶。あんなもんに、時間かけてた連中の気が知れねぇ」

 ラング中尉がそう言ってきた。

「そうなんですね。わたしが相手にしたのも同じですね」

「フーン。そうなんだ」

 わたしの言葉に、レイナさんがそう言ってきた。

「そうだな。私も、その戦闘に関する話を聞いてそう思った。作戦は見事だったのにな」

 ゴクゴク。

 ディアナ大佐はそう言って、ジュースを飲み干すと、コップをテーブルに置いた。そして。

 スクッ。

「では、私はこれで失礼する。後はお前たちで楽しめ」

 大佐はそう言って、席から立ち上がった。

「もう行くの?もっといればいいのに」

「酒の出ない席に、これ以上いるつもりはない」

 メアリーさんの言葉に、大佐はそう答えると。

「それから少尉。先に言っておくが、敬礼はする必要はない。お前の歓迎会に、そんなことをする必要はない」

 大佐は、わたしを見てそう言ってきた。

「は、はい。今日は来てくれてありがとうございました。大佐」

「うむ。では失礼する」

 そう言うと大佐は、食堂を後にしていった。


   **************


『…あの雰囲気は消えていない…。…だからか?…心から楽しめていないのは…』


   **************


「ご馳走さまでしたぁーーー!!!」



 大佐が去って、しばらくした後、お昼に入った頃、わたしの歓迎会の終わりを告げるように、皆が、一斉にそう言ってきた。

「ご馳走さまでした」

 わたしが、手を合わせてそう言うと。

「何だ何だ。もっと嬉しそうな反応しろよ。上坂」

 ラング中尉が、わたしにそう言ってきた。

「…いえ、嬉しいです。ホントに…。…すいません…」

 嬉しい気持ちはある。本当に。だけどそれを、ちゃんと表現できない。わたしには、もう一生縁のないものだって、思ってたところもあるけど。



 それが表現できなくなってる。全てを捨てたあの時から、それができなくなってる。



 すると。



「別にいいだろ。シルヴィアの時よりマシだろ。こいつん時は、こんなこと言わなかったろ」

 アイリスが、ラング中尉にそう言ってきた。

「うるさい。余計なお世話」

 シルヴィア伍長はそう言うと。

「私のことはシルヴィアでいい。私もあなたのこと、瑞穂って呼ぶから」

「…うん。ありがとう。じゃあ、そう呼ぶね。シルヴィア…」

 シルヴィア伍長。いや、シルヴィアに、わたしはそう言った。

『…アイリスといい…。…ホントにいつ以来だろ。誰かをこんな風に呼ぶのは…』

「…アイリスもシルヴィアも呼び捨て…。わたしは、さん付けで敬語呼び…。…まぁ、仕方ないと言えば仕方ないけどさ…」

 レイナさんが、ムスッとした顔で、ブツブツと何か呟いていた。何言ってるんだろ?…まぁいいけど…。

 そして。

「じゃあ、わたし、宿舎の方、見て回りたいんんですけど。いいですか?」

 わたしがそう言うと。

「ええ、いいわよ。片付けの方はやっておくから」

 メアリーさんが、わたしにそう言ってきた。

「すいません。では」

 そう言って、わたしが食堂から出ようとすると。

「ハイハイ♪わたしが案内したげる♪一緒に行こ♪瑞穂♪」

 レイナさんがそう言ってきた

「…いえ、わたし一人でいいです…」

「いいじゃんいいじゃん♪ほら、行こ♪あんたたち、後よろしく♪」

 そう言うとレイナさんは、わたしの腕を引っ張って、わたしと一緒に食堂を出た。



『…次から次へと…。…勘弁してよ…』



 孤独。



 わたしは、それを選んで、ずっとそうしてきたのに。



 どうして、次から次へと、こんなことが起こるんだろう。



 レイナさんに、腕を引っ張られたわたしは、そんなことを思ったのだった。





















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る