第26話 歓迎会①

 迎えた朝。


 独房に来た兵士に、ドアを開けられた後、わたしはそのまま独房を出た。

 そして隣の独房を見ると。

「ああ、もう朝かよ。もうちょっと寝たかったってのに」

 アイリスがそう言って、独房から出てきた。

 そして。

「よぉ。瑞穂」

 アイリスは、わたしを見てそう言ってきた。

『…昨日、あんなに突っかかってきて、名前呼びって…』

「んだよ。お前だって、あたしのこと、名前で呼んできただろ。おあいこだっつの」

「…そうだったね…」

 確かにそうだ。頭にきてたからか、わたしは彼女のことを名前で呼んでた。「アイリス」って…。

「あたしのことは、アイリスって呼んでいいぜ。あたしもお前のことは、瑞穂って呼ぶからよ」

 いつもなら無視してる。こんな感じで呼ばれるのは、もうして欲しくないからだ。でないと、色々と絡んでくる。

 わたしは極力、人と関わりたくない。任務とかならともかく、それ以外で人と深く関わるつもりはない。養成所にいた時だってそうしてた。まぁ、例外はあったけど。



 わたしは、人と深く関わりたくない。関わるべきじゃない。そんな資格は、わたしにはない。全てを失った時から、わたしにはもう、その資格を持つなんて出来ない人間になったんだから。



 孤独。



 わたしには、それがお似合いなんだから。



 なのに…。



「…好きにすれば…」



 わたしは、そんな言葉を言ってしまっていた。

 意識して言ったわけじゃない。何故かそんな言葉を、わたしは口にしてしまっていた。



 すると。



「んじゃ、そうさせてもらうな。よろしくな。瑞穂」

 アイリスが、ニンマリとした顔で、わたしにそう言ってきた。

「…昨日とは、全然態度違うね…」

 わたしがそう言うと。

「まぁ、昨日の夜話してみて、何か思ってたのと違うって分かったしな。…だけど」

「だけど?」

「…だからって謝んねぇぞ。お前がそう言ってきたんだしな…」

 アイリスが、そっぽを向いた感じでそう言ってきた。

 そして。

「いいよ。それで。だけど昨日の夜も言ったけど、わたしも謝らないから」

 わたしは、アイリスにそう言った。すると。

「ヘっ!!けどな、模擬戦のヤツとは話が別だからな。絶対また勝負して、今度こそ決着つけてやる!!」

「それは御免。あんなの、もうやらない。絶対」

 アイリスの言葉に、わたしはそう答えた。あんなのは、本当にもう御免だ。色んな意味で。

「宿舎に行きましょう。こんなところに、いつまでもいられないし。そうでしょ?アイリス」

「そうだな。行くか。瑞穂」



 そうしてわたしとアイリスは、宿舎に向かっていった。



『…いつ以来だろ。…誰かと名前で呼び合うなんて…』



 宿舎に向かう道中で、わたしはそんなことを思った。






















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る