第25話 独房②

「んだよ。それ。…まぁいいけどよ…」

「…それなら聞いてこないでよ…」

 アイリスの言葉に、わたしは、そう返した。

 すると。

「だってよ、気になんだろ。自治権持ってる国から出て、こっちの軍に入ってくるなんてよ。あっちの軍に入りゃいいだろ」

 アイリスが、わたしにそう言ってきた。



 自治権を持った国。



 この時代では、どこかの国の傘下。あるいは属国になるのを免れている国が存在する。

 それらの国は、自治権を持つことで、そういった行動の対象から外されるようにしているのだ。



 だけどそうなっている理由は、ちゃんと存在する。

 それはその国が、ちゃんと独立していけるだけの力があること。言ってみれば、どこかの国の傘下や属国にならなくても、充分やっていけるだけの力が備わっている場合、その国は自治権を行使して、自分たち独自の政治を行っていける。



 だけどその中には、自治権を放棄して、どこかの国の傘下や属国になるケースもある。

 どうしてそんなことになるのかは分からない。

 経済が下向きになったからだとか、経済が崩壊したからとか、色んな噂があるけど、あくまでも噂で、はっきりとしたことは分からない。

 どこかの国が攻め込んだからというのでもない。自治権を持った国を理由もなく攻めるのは、侵略行為と見なされて、国際問題になるからだ。その辺が自治権を行使している国と、そうでない国との違いだ。

 その辺の理由を知っているとしたら、偉い人か、その辺の事情に詳しい人くらいだろう。



 そして、その自治権を持った国にも軍隊はある。日本もそうだ。



 だけど。



「関係ないでしょう。まぁいいとか言ってきたヤツが、そんなこと聞いてこないで」

 わたしは、アイリスにそう言った。確かに軍に入るだけなら、自分の国の軍に入ればいい。…だけどそれじゃ駄目なんだよ…。



 入ったって、きっと目的は叶わない。そんな機会なんて、きっと訪れないだろうから。



 ……それに何より……。



「うっせぇな。言ってみただけだっての」

 アイリスはそう言うと。

「まぁ、日本なんて自治権持ってるって言っても、国とは名ばかりの、只の観光地だからな。それが分かってねぇのは、そこに住んでる連中だけみてぇだし」

「…そうらしいね。わたしもこっち来て、軍の養成所に入った時に初めて知った。そんな風に思われてるって…」

 わたしはそう言うと。

「…まぁ、あんたの言うとおり、平和ボケしてるのかもね。…だから、やっちゃいけないことしちゃうんだろうね…」

「何か言ったか?」

 聞こえてなかったようだ。もっとも、それくらい小さな声で言ったんだけど。

「…何でもないわよ…」

 そして。

「だけどわたしだって、こっちに来て、最初の頃は大変だったんだよ。片道でこっちに渡って、慣れない翻訳機着けて、軍の養成所に願書出して。それが通るまで、安い簡易宿泊所に泊まって。ホント大変だったんだから」

 わたしは、アイリスにそう言った。すると。

「マジかよ。それでよく養成所入れたな。お前」

「まぁね。とにかく願書が通って、学費免除で入ったんだよ。リスクはあったけど…」

 アイリスの言葉に、わたしはそう答えた。そう。学費免除で、わたしは養成所に入った。だけどリスクはあった。普通なら、避けたいだろうリスクが。

「…学費免除で養成所に…。…しかもリスクありって…。…ホント、マジでお前…」

 アイリスが、そこまで言うと。

 ドンッ!!

「話は終わり。わたし、もう寝るから」

 わたしは、独房の壁を蹴ってそう言うと。

「ああ、それから」

「何だよ?」

「謝らなくていいから。その代わり、わたしも謝らない。それでいい?」

「…ああ。それでいい。あたしもそのつもりだし…」

 わたしの言葉に、アイリスはそう答えてきた。

 そして。

「それじゃ。お休み」

「ああ。お休み」



 わたしは、独房のベッドまで移動して、そこに横たわると。

『…独房か…。初めて独房に入れられた時も思ったけど、わたしにはお似合いかもね…』

 わたしは、ふとそう思った。初めて独房に入れられた時もそう思った。わたしにはお似合いって。



 そしてわたしは、目を閉じると。

『…あの頃は眠れなかったのにな…。…今では、ちゃんと眠れてる…。…だけどそれでも…』

 そう思いながらわたしは、そのまま眠りについていったのだった。

































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