第24話 独房①
あの模擬戦が終わってしばらくした後。
わたしとアイリスは、ライオットをHWMの格納庫まで移動させて、コクピットから降りた後、兵士たちに連れられて、この独房に入った。
連れて行かれる時に、兵士たちの様子を見てたけど、慣れているというより、何だかもう普通というか、いつものことみたいな感じだった。
実際、兵士たちの口から「またか」とか「今月で何回目だ?」とかいう言葉が、チラホラと聞こえた。
アイリスが、独房に入っていく時もそうだ。反省の色がない。むしろ、いつものことって顔をしてた。
『…まぁ反省してないっていうなら、わたしも同じか…』
すると。
ドンッ!!
「おい!!アレで勝ったとか思うなよ!!勝負は着いてなかったんだからな!!」
隣の独房にいるアイリスが、大声でわたしにそう言ってきた。しかも今の音、壁蹴った音だよね?
『この壁って薄いの?声、丸聞こえって感じなんだけど』
ドンッ!!ドンッ!!
「おい!!聞いてんのか!!翻訳機外してんのか!?おい!!」
アイリスが、更に壁を蹴って、わたしにそう言ってきた。
そして。
「聞こえてる。翻訳機も着けてる。うるさいわよ。あんた」
わたしは、アイリスにそう言った。これくらい音が響くなら、このくらいの声でも聞こえるだろう。
「んだよ。着けてんなら、さっさと答えろっての」
やっぱり、これくらいの声でも聞こえるんだ。アイリスから、返事が返ってきた。
こういう仕事だからもあるけど、わたしは基本的に、翻訳機を常時着けている。外したりするのは、HWMに乗ってる時とか、翻訳機を充電する時くらいだ。それ以外の時に、翻訳機を外すことはあまりない。
一般に普及されてる翻訳機と違って、軍から支給される翻訳機は、防水加工もしっかりしてるから、お風呂に入る時も外すことはない。身体洗ったりする時は、流石に外すけど。
今の国の軍隊は、一部を除けば、皆、多国籍軍みたいな感じになっている。
他の国を、自分の国の傘下、あるいは属国にするという行動をしてることもあって、傘下に入った国の人間や、属国になった国が、その国の軍に入ったりするのは珍しくなくなってる。理由は、人それぞれ違うけど。
だから軍では、翻訳機は必需品みたいな感じになっている。その方が便利だからだ。
「こんなところに入ることになったのも、あんたのせいよ。あんたが模擬戦なんて吹き掛けて来るから」
壁越しから、わたしはアイリスにそう言った。すると。
「うるせぇ。それ買ったヤツが言うんじゃねぇよ」
アイリスが、そう言ってきた。まぁ確かにそうだけど。
「お前、独房入るの初めてってか?」
「…何回か入ったことある。こんな理由で入るのは初めてだけど…」
アイリスの問いに、わたしはそう答えた。
主な理由としては、単独行動に対する処罰でだ。
だけど、大佐やアイリスの言うところの、エースなんて呼ばれるようになってからは、そんなこともなくなった。もっとも、あまりいい顔はされないけど。仕方なくって感じが、顔に滲み出てたし。それに何より、ここに転属になった理由もそれだし。
「そうか。まぁここじゃ、独房入りになるなんて日常茶飯事だしな」
『ハァッ?日常茶飯事?』
アイリスのその言葉に、わたしはそう思った。
「もっとも、独房に入ったりするのは、あたしらHWMのパイロットだけどな。因みに、一番入ってんのはあたしだ。今回で最多更新した」
「…自慢にならないわよ。それ…」
アイリスの言葉に、わたしがそう言うと。
「うるせぇ」
アイリスが、そう答えてきた。
そして。
「…なぁ…」
「何?」
「お前、何で日本飛び出して、こっち来たんだよ?しかも軍に入るなんてよ」
アイリスが、わたしにそう聞いてきた。
「…答える必要なんてない…」
わたしは、素っ気なくそう答えた。
答える必要なんてない。
全てを失って、全てを捨てたわたしが、そんなのに答える必要なんてないんだから。
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