第23話 模擬戦⑪

『そこまでだ!!二人とも!!』

 通信から声が聞こえた。

 この声は…。

「ディアナ大佐?」


   ***************


「待てよ!!大佐!!まだ勝負はついてねぇ!!」

 アイリスがそう言うと。

『黙れ。ヴァリキュリア曹長』

 アルテミアは、強い口調でそう言ってきた。

「クッ!!」


   **************


「お前たちもだ。こちらの許可なく模擬戦をやるとはな」

 軍用ジーブに乗るアルテミアは、ラングたち四人を見てそう言うと。

「…全く。俺がいない間に、楽しいことしやがって…」

 運転席に乗っている、スキンヘッドの男がそう言ってきた。すると。

「口を慎め。シュナイダー大尉」

 アルテミアは、運転席に座る男。シュナイダーを見てそう言うと。

「すいません。つい」

 そして。

「怒られてやんの。隊長」

 ラングは、その様子を見て、クククッと笑いながらそう言った。


  ****************


『ヴァリキュリア曹長。今日は一晩独房で過ごせ。慣れているだろう』

「…ヘイヘイ…。…クッソ…」

 アルテミアからの通信に、アイリスはそう答えた。


  ****************


「上坂少尉。配属されて早々悪いが、最初の夜は独房で過ごしてもらう。これも規則なのでな』

「…了解…」

 大佐からの通信に、わたしはそう答えた。

「…全く。ホント何なの。この部隊…」

 わたしは小さくそう言うと、コクピット付近のポケットから、仕舞っていた翻訳機を取り出すと、それを耳に取り付けた。

『…ちょっと外出よ…。…気持ち落ち着かせたい…』


   **************


「お前たちにも、処罰は受けてもらう。だが、お前たちに処罰を与えるのは私ではない」

 そう言うとアルテミアは、後部座席の方に目をやった。

 そこには。

「毎度のことながら、こんなことばっかり起こして。ホント、しょうがない子たちね」

「メアリーさん?」

 ラングたち四人が、揃ってそう言うと。

「あなたたちには、宿舎の修繕をやってもらうから。この間起こした騒ぎで、壊れたままだし。ちょうど良かったわ」

 メアリーは、後部座席から降りると、ラングたちにそう言った。

 すると。

「意義あり。アレは、アイリスとラングが起こしたヤツ。私たちは巻き込まれただけ」

 シルヴィアが、小さく手を上げてそう言うと。

「そうですよ。自分なんか巻き添えで殴られたんですよ。両方に」

 ブリッツが、続けてそう言ってきた。

「駄目。連帯責任よ。悪いとは思うけど。特にシルヴィア。あなたなんか、レイナとどっちが勝つか賭けてたでしょう?」

「それは隊長も同じ」

 シルヴィアは、メアリーの言葉にそう答えると、シュナイダーの方をチラリと見た。

「おい。俺を巻き込むな。仮にも俺は隊長で、この部隊のエースだぞ」

 すると。

「ざけんな!!エースは俺だ!!隊長だからって、エース面すんな!!」

 ラングは、親指で自分を指して、そう言ってきた。

「違う。エースは私」

 シルヴィアが、続けてそう言うと。

「…また始まった…。誰でもいいでしょう…」

「良くない!!」

「良くねぇ!!」

「良くない」

 ブリッツの言葉に対して、シュナイダー、ラング、シルヴィアの三人は、同時にそう言った。

 すると。

「ハイハイ。それでおしまいになさい。…いいわね?」

 メアリーが、怖い目で睨み付けてそう言うと

「…分かりました…」

 三人は、ビクリした顔で、メアリーにそう言った。そして。

「じゃあ、隊長さんも宿舎の修繕お願いね。言ったでしょ?連帯責任だって♪」

 メアリーが、シュナイダーにそう言うと。

「そういうことだ。大尉、降りろ。私一人で帰る」

「…ハイハイ…」

 アルテミアの言葉に従って、シュナイダーは運転席から降りた。

 そしてアルテミアは、運転席に移動すると。

「それではメアリー、後は頼む」

「OK♪」

 メアリーの、その言葉を聞いたアルテミアは、そのまま軍用ジーブを動かして、その場を去っていった。

「さて、俺たちもそろそろ行くか」

「…了解。隊長…」

 ブリッツの言葉を聞いたシュナイダーは、運転席の隣に座ると。

「待て!!そこは俺が座ってたトコだぞ!!」

「隊長が、後部座席になんぞ乗れるか」

 ラングの言葉に、シュナイダーはそう返した。

「…クッソ!!」

 そう言ってラングが、後部座席に乗ろうとすると。

「ラング、荷物置き場の方に座って。後部座席は女性専用」

 レイナは、ラングにそう言ってきた。

「ハァッ?ざけんな!!」

 すると。

「じゃあ、わたしが荷物置き場の方に座る。それでいいでしょ?」

 そう言うとレイナは、荷物置き場の方に座った。

「…何だあいつ。マジでいつもと違うな…」

 後部座席に乗ったラングがそう言うと。

「うん。私たちの言い合いにも参加して来なかったし」

 既に後部座席に乗っているシルヴィアが、ラングにそう言った。

「…そうね…」

 そう言ってメアリーも、後部座席に乗ると。

「あの、もう出発していいですか?」

「ちょっとだけ待って」

 レイナが、ブリッツにそう言ってきた。

 そして。

「…いいよ。出して…」

「レイナ?ホントにどうしたの?」

「…何でもない…」

 シルヴィアの問いに、レイナはそう答えた。

「じゃあ、行きますね」

 そう言うとブリッツは、軍用ジーブを発進させた。


  ****************


『…やっと見れた…。…あの子の姿…』

 荷物置き場に座るレイナの目には、彼女が映っていた。


 ライオットのコクピットハッチを開いて、静かにそこに座っている彼女の姿が。


 その長い黒髪を、風に靡かせている少女。


 上坂瑞穂の姿が。


 荷物置き場に座ることにしたのも、この為だ。


 少しでも長く、彼女の姿が見たいから。


『…ホントに初めてだ。わたしが、誰かに目を奪われるなんて…』


 彼女が可愛いからだとか、綺麗だとか、そんな理由じゃない。それではアイリスが、彼女に言った言葉が正しいことになってしまう。


 そんな理由じゃない。そんな馬鹿げた理由なら、自分は、もうとっくに誰かに目を奪われる体験をしている。


 もっと違う何か。理由なんてつける必要なんていらない何かで、彼女に目を奪われている。


『…目を奪われてるだけじゃない…。…持ってかれてる…。…わたし…』


 目を奪われていることよりも、そちらの方にレイナは驚いていた。自分が、こんなに容易く持っていかれるなんて。


『…荷物置き場に座って良かった。顔見られなくて済む…』

 レイナは、指で唇をなぞりながらそう思った。


 そして。


「…瑞穂…。…上坂瑞穂…」


 指で唇をなぞりながら、レイナは小さく彼女の名前を呟いていた。



















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