第17話 模擬戦⑤

「しっかし、さっそくこれかよ。早すぎっだろ」

 軍用ジープに乗っている男がそう言うと。

「…ですよね。大体皆が集まって、ワイワイ騒いでる時に、こういう展開になったりしてますもんね。…自分の時もそうでした…」

 男の隣の運転席に乗っている、もう一人の男がそう言ってきた。

「レイナ。新入りの人、アイリスに何かしたの?」

 後部座席に座っている、アイリスと同じくらいの背丈の少女が、隣にいるレイナにそう聞いた。

「何もしてないわよ。アイリスが突っかかっていってそうなったの」

 レイナがそう答えると。

「初めてだな。アイリスが、初っ端から突っかかって、模擬戦までやるなんて言い出すなんて。いつもなら、殴りかかっていって騒ぎになるくらいだってのに」

 運転席の隣に座っている男が、振り返って、レイナにそう言ってきた。

「だね。わたしの時がそうだったっけ」

「…自分は殴られましたね。思いっきり…。『子供扱いすんじゃねぇ!!』って…」

 運転席に座っている男がそう言うと。

「アレは傑作だった。クリティカルなパンチだったし」

 後部座席に座る少女はそう言ってきた。そして。

「その人、日本人なんだよね。よくは知らないけど。それでじゃないかな?」

「…かもな…」

 少女の言葉に、運転席の隣の男はそう言った。

「その人、エースって呼ばれてるし。だけど、あんなライオットで、ずっとやってきたのかな?あの人…」

 少女は望遠レンズで、その彼女が乗っているライオットを見ながらそう言った。


 HWMの最大の特徴は、機体の多様な拡張性にある。


 空中戦仕様。陸戦仕様。海戦仕様等といった機体も存在するが、基本的に全てのHMWは、武器や装備の換装を行えば、それらに対応できるようになっている。HWMの装備が、どの軍の、どのHWMでも使える理由でもある。

 それらの仕様に作られた機体の装備を取り付けることも可能だ。その機体によりけりではあるけど、出来ないというわけではない。


 なのに、あのライオットの装備は標準装備だ。目立った装備が見られない。


「エースなら、他の機体には装備されないような武器やら装備できるのに。何であんな機体なんだろ?」

 少女は、望遠レンズを目から下ろしてそう言うと。

「所属してた部隊とかで、装備とか変えてたんじゃねぇのか?臨機応変ってヤツで。俺たちだってそうだろ?」

 運転席の隣の男が、少女にそう言ってきた。

「…そうだけど。それでも何だかおかしいよ…」

「まっ、おいおい分かるだろ。まずはお手並み拝見だ。準備は出来てるか?」

「うん。ドローンの準備はOK。今から戦闘空域に飛ばすね」

 そう言うと少女は、横に置いてあったタブレットを手にすると、タブレットの画面を操作し始めた。

 すると。

 プシューン。

 ドローンが、空中へと飛んだ。そして一定の高度にたどり着くと、静止して浮遊状態に入った。

 運転席の隣の男は、それを見ると。

「じゃあ、俺たちも始めるか」

「またですか?」

 運転席の男がそう言うと。

 ガシッ。

「もう分かってるだろうが、降りるのは無しだ。ちゃんと賭けろ。いいな?」

 隣の席の男が、運転席の男の頭を掴んでそう言った。

「…分かりましたよ…」

「お前らもいいな?」

「うん。…?…」

 少女は、隣のいるレイナを見た。そういえばさっきから静かだ。いつもなら、もっと喋ってきてるのに。

「レイナ、どうしたの?」

「んっ?何でもないよ」

 少女の問いにレイナはそう答えると、再び前を見た。

 その先にはライオットがいる。

 だけど彼女が見ているのは、正確にはライオットではない。そのライオットに乗っている少女をだ。レイナは、ライオットを通して、彼女を見ていた。

 透視とか、そんなことが出来るとかではない。だけどレイナの目には、彼女が映っていた。

 あの長い髪の、黒髪のあの少女が。

『…何か初めてかも…。…こんな気持ちになるのって…』

 レイナは、唇に指を当てながらそう思った。



  ****************



「…配属早々…。何でこんなことになるのよ…」

 ライオットのコクピットに乗っているわたしは、小さくそう呟いていた。











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