第13話 模擬戦①

 端末機に送られた道筋に従って歩いて行き、わたしは宿舎に到着した。

「ここか」

 わたしは、宿舎を見上げると、小さくそう言った。

『何か小綺麗だけど、所々、壊れてるトコとか、汚いトコがあるな。小綺麗な分、逆にそういうトコが目立ってる』

 今までいた、どの部隊の宿舎とも違う。そんな感じが、この宿舎にはある。

『まぁいい。さっさと入ろう』

 そして、わたしが宿舎に入ると。

「いらっしゃい。話は大佐から聞いてるわよ」

 この宿舎の管理人らしき女性が、わたしに声をかけてきた。

「どうも。これからお世話になります」

 わたしはそう言って、その女性に会釈すると

「ちゃんとした挨拶してくるなんてね。久しぶりだわ。そういうの聞くの」

 女性は、わたしにそう言ってきた。久しぶり?どういう意味?

「まぁ今そんなの説明したって仕方ないか。とりあえずここにサインをお願いね」

 女性はそう言うと、わたしにタブレットを差し出してきた。

 わたしは、そのタブレットを受け取ると、そのタブレットにサインした。日本語でサインしたそれは、そのタブレットに設定された言語に変換された。もうこういうのには見慣れたから、驚いたりすることはない。

 そしてわたしは、タブレットを女性に返すと。

「ありがとね。ああ、私はメアリー・サマリア。これからよろしくね」

 その女性。メアリー・サマリアさんは、わたしにそう言ってきた。

「はい。よろしくお願いします」

「それから私、ここの管理人で、寮母で、寮長でもあるから。何かあった時は、何でも言って」

 管理人で、寮母で、寮長?この人、一人で全部そんなのやってるの?

「…何もないことはあり得ないわね。どっちにしろ…」

 メアリーさんは、小さくそう言うと、ポケットから端末機を取り出した。

「宿舎の見取り図送るわね。部屋番号の方は、大佐から送られてるのよね」

「はい」

 そう言ってわたしが、ポケットから端末機を取り出すと。

「宿舎の見取り図も一緒に送ればいいのに。大佐って、ホントそういうところは抜けてるんだから」

 メアリーさんは、苦笑を浮かべながらそう言うと、端末機を操作した。そしてわたしの端末機に、宿舎の見取り図が写し出された。

『男性棟と女性棟に分かれてる。宿舎は男女共用か。今までにいた部隊は、男性の宿舎と女性の宿舎に分かれてたのに…』

 すると。

「大丈夫。変なことはしてこないから。そんなことさせないから安心して」

 メアリーさんが、わたしにそう言ってきた。そして。

「第一、そんなことしてこようものなら、それこそ大騒ぎよ。只でさえ、いつも騒ぎ立ててる人たちなんだから」

「そうなんですか?」

「…まぁここで説明しても仕方ないわ。直ぐに分かるわよ。…しょうがない人たちの集まりだし…」

『…そういえば大佐も言ってたな。「直ぐに分かる」とかって。輸送機のパイロットの人も言ってたって。「あまり言い噂は聞かない」って』

「あと、ここの宿舎はあなたと同じHWMのパイロットばかりだから。他の人たちは、別の宿舎よ。基地の地図で確認しておいて。それも大佐から送ったって聞いてるから」

 メアリーさんは、わたしにそう言うと。

「そういえば昼食は?済ませてあるの?」

「はい。輸送機の中で済ませました」

 メアリーさんの問いに、わたしはそう答えると。

「じゃあ、わたしは部屋へ向かいます。では」

 そう言ってわたしは、メアリーさんに軽く頭を下げると、自分の部屋へと向かって行った。



    ***********



「メアリーさん。たっだいま~♪」

「あら、お帰りなさい。他の人たちは?」

「後から来る。私が一番乗りってことで♪」

「ざっけんな!!一番乗りはあたしだ!!そこ退け!!」

 バタバタバタッ!!

「駄目よ。一番乗りは譲りません。残念でした♪」

「クッソ!!またかよ!!」

 パンパン。

「ハイハイ。二人とも落ち着きなさい。新しい人入って来たわよ」

「ああ、今日から配属になるって人ですね。メアリーさん」

「そうよ。あなたと同じ長い髪の女の子。可愛らしい女の子だったわ。何だか無愛想だけど。だけどあなたたちよりは礼儀正しい感じだったわ」

「そうなんですか。まぁここで礼儀正しさなんて、あまり意味ないですけど♪」

「そんなこと言わないの」

「…確かそいつ、エースだとか呼ばれてるだよな…」

「アイリス?」

「そいつの面、拝みに行く。噂のエース様の」

 タッタッタッ。

「…全くしょうがない子ね…」

「そうですね♪」






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