第12話 メテオ・ビースト⑤
「それは単独行動。それも指揮官や隊長の命令も無しに。ここに来る前にいた部隊でも、それを行ったそうだな。それも配属されて初の戦闘で」
『…やっぱりね。まぁ分かってたけど…』
そんなの自分がよく分かってる。
だって…。
「まぁ、だからここに転属になったわけだがな。初っ端から、よくもやるものだな」
司令官が、薄笑いを浮かべてそう言ってきた。
『…この人、一体何なの?ホント、今までの司令官とは違う。色んな意味で』
「…ええ。仰る通りです…」
わたしがそう言うと。
「不機嫌な声だな。燗にでも障ったか?」
「…いえ、そういうわけでは…。…申し訳ありません…」
「気にするな。そういうのには慣れている」
そういうのには慣れてる?どういうこと?
すると。
「だが、どんな戦闘においても、単独行動を行うわけではない。普段は、きちんと指揮官や隊長の命令に従って、作戦行動を行っている。だが…」
そう。普段は、ちゃんと命令に従って、作戦行動を行ってる。
だけど。
「ここぞというか、突然というか。貴官はいきなり単独行動に移る。しかも決まってその時は、単機では明らかに危険な場所へ突入、あるいは多数の敵機がいる中に、ただ一機で突撃。貴官が、ここに転属になる原因になったのもそうだな。前方のタトルコス六機に、ただ一機で突撃を仕掛けた。隊長の命令も無しに」
司令官が、わたしにそう言ってきた。そして。
「だが貴官は、そのタトルコス六機を全て撃破。今までの単独行動においても同じだ。危険な場所へ突入しても帰還を果たし、多数の敵機を相手にしても、必ずそれを撃破して戻ってくる。そしてエースパイロットの仲間入り。命令に従っての作戦行動での戦果を含めても、それに値するだけの撃破数を、貴官は叩き出している」
続けてそう言ってきた。
『…エースパイロット…ね…』
「お言葉ですが、司令官」
「何だ?少尉」
「自分は、そういう呼ばれ方をされるのが好きではありません。そうなりたくてそうなったわけではありませんので」
わたしは、司令官にそう言った。初めてだ。こんなにはっきりと、こんなことを言うのは。
「そうなりたくてそうなったわけではない、か。…昇進の時の態度と同じだな。そういったものにも興味がないということか…」
司令官は、わたしをじっと見てそう言ってきた。
「はい。こちらこそ申し訳ありません。さっきから失礼な態度を取ってばかりで」
そう言うとわたしは、司令官に軽く頭を下げた。
「構わん。言っただろう。慣れていると。それに昇進に興味がないのは私も同じだ。これ以上の昇進を望んでいない。上の連中が何と言って来ようとな」
司令官はそう言うと。
「この部隊の連中は皆、大体そうだ。そんなものには飽き飽きしてる連中ばかりだ。もっとも、エースに関しては違うがな」
「そうなんですか?」
「ああ。まぁ直に分かるだろう」
そう答えると、司令官はポケットから翻訳機を取り出してきた。それを見たわたしは、ポケットから翻訳機を取り出すと、それを耳に取り付けた。
「すまんな。母国語以外の言葉を、長く話していて疲れたのでな。こんな便利なものがあると、そうなってしまうようだ」
「いえ。大丈夫です」
翻訳機を取り付けた司令官に、わたしはそう答えた。
すると。
「端末機も出せ。この基地の地図。宿舎までの道順を送る。それから貴官の部屋の番号もな」
そう言われたわたしは、ポケットから端末機を取り出した。これも翻訳機と同様、軍からの支給品。入隊と同時に渡されたものだ。
そして司令官は、タブレットと同じように、机に置かれていた端末機を手にすると、それを操作した。
そしてわたしの端末機に、この基地の地図と宿舎までの道順。そしてわたしの部屋の番号が映り出された。
司令官は、わたしがそれを確認するのを見ると。
「私のことは大佐で構わん。司令官と呼ばれるのは、どうも合わん。第一、私は前線で指揮を取るようにしている。机の前に座って、ただ命令を下す連中とは違う」
わたしにそう言ってきた。
わたしは、端末機をポケットにしまうと。
「分かりました。司令官。いえ、大佐。それではこれで失礼します。では」
そう言ってわたしは、大佐に敬礼すると、横に置いていた荷物を手にして、そのまま指令室を後にした。
**************
『…何だ?あの雰囲気…。…何故、あんな雰囲気を漂わせている…。…何故…』
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