第11話 メテオ・ビースト④

アルテミア・ディアナ大佐。


わたしに、そう名乗った司令官は、席の前にある机に置かれたタブレットを手にした。


「上坂瑞穂。十八歳。日本人」

『わたしの経歴が映ってるの?だけどこんなこと言ってきた人なんて、なんか初めてだな』

「日本生まれの日本育ち。一身上の都合で、高校を中退。単身で此方に渡り、軍の養成所に入学」

タブレットを見ながら、司令官はそこに映ってるだろう、わたしの経歴を読み上げてきた。

「志望動機は一身上の理由。これが会社の面接だったら、不採用になっているような動機だな」

司令官は、笑みを浮かべてそう言ってきた。

「…そうですね…」

わたしは、静かにそう答えた。


わたしはふと、軍の養成所に入学する際に書いた願書のことを思い出した。


わたしがその時、自分の学歴やらを書いたのは、司令官が今持っているようなタブレットだった。


この時代では、そういった資料の作成、記入にはタブレットが使用されるのが普通になっている。

そして翻訳機能は、そういったタブレットにも組み込まれている。

端末に言語を設定しておくと、記入した言語が、設定してある言語に翻訳されて、その言語に書き変わる仕組みになっている。

そういった機能があることは知ってたけど、実際それを見た時には、少し驚いた。翻訳機やらの時も、最初はそんな感じだった。

だけど司令官のように、語学が堪能な人の場合、記入の際、「必要ありません」と相手に告げたりするらしい。その際は、記入の時、翻訳機能がOFFにされる。語学に堪能じゃないわたしは、そんなの言わなかったけど。


それでも紙の本や、紙を媒体にした書類やらが失くなったわけじゃない。ちゃんとこの時代にもある。


因みに、教科書の類いは全てタブレットに置き換わっている。どこの学校でも、皆そうなってる。軍の養成所でも。…そして日本の学校でも…。


「HWMパイロット科を専攻。不明な志望動機にも関わらず、成績は優秀。ただ…」

司令官の口が、ほんの一瞬止まった。そして。

「時折、養成所の生徒と揉め事を起こすことがあったそうだな。理由は不明だが…」

司令官がそう言ってきた。ホント、そんなこと言ってきた人、初めてだ。

「それこそ一身上の理由です。お話するようなことではありません」

わたしがそう言うと。

「そうだな。言ってみただけだ。他意はない」

司令官が、そう答えてきた。他意はない、か…。

「それにその後、補習はきちんと受けました。反省文の方は拒否しましたけど」

「補習は受けても、反省文は拒否か。何とも面白い話だな」

わたしの言葉に対して、司令官は、苦笑を浮かべてそう言ってきた。

『…何かちょっと腹立ってきた…。…落ち着け落ち着け…』

「だがそれでも優秀な成績を修めたことに変わりはない。そして養成所を卒業。正式に軍に入隊」

そう言うと司令官は、タプレットを机に置いた。

そして。

「だがそこからだ。問題が発生したのは。それが何なのか。それは貴官が一番分かっていることだろう?少尉」

司令官は、わたしをじっと見てそう言ってきた。

『何だか、今までの司令官とは雰囲気が違う。女の人とか関係なしに』

その司令官を見て、わたしはそう思った。


司令官が言ってきた問題。確かにわたしが一番分かってる。


それは…。




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