第5話 プロローグ⑤

作戦が終わり、わたしたちの部隊は本陣に戻った。

空は夕暮れ。もうすぐ夜になりそうな感じだ。


あの後、敵の本陣を降伏を確認した、わたしたちの本陣は、ボーンワーカーを向かわせた。

本来、ボーンワーカーの役目はそういうものだ。制圧なり、降伏なりした基地やら本陣をボーンワーカーが確保して、そこを維持。本来ボーンワーカーはそう使われる。

後は歩兵部隊が出て、そこを防衛する。というより、見張りといった方がいい。戦闘後の歩兵部隊の役目なんてそれくらいだ。敵が来たら、ボーンワーカーが迎撃。HWMが出てきた場合は、わたしたちが出撃。そういう流れになるんだから。


「とりあえず、後はあっちに任せよ」

そう言うとわたしは、耳に翻訳機を取り付けた。


補聴器型翻訳機。


これに言語を設定しておくと、その言語に合わせた言葉に翻訳されるようになっている。世界的に普及されて、色々なところで使われている。

だけどそれで、英語とか多国語を勉強することがなくなってるわけじゃない。そういう勉強をする学校は、ちゃんとこの時代にもある。

こんな便利なものがあっても、語学が堪能であるということは、色々便利だからだ。進学やら就職やらに役に立つという理由で。またきちんと、語学を学びたいという人たちだっている。先の理由に関係なく。


軍隊においても、これは全ての人間に支給されている。語学に堪能で有る無しに関わらず。


そして、わたしの着けている翻訳機に設定されている言語は日本語。当たり前だ。日本人なんだし。語学に堪能ってわけでもないし。


「…日本…か…」

小さくそう呟くと、わたしはライオットのコクピットから出て、昇降用のワイヤーで地面に降りた。

「上坂。派手にやらかしたもんだな」

同じ隊のライオットのパイロットが、わたしにそう言ってきた。そして

「噂には聞いてたけど、いきなりあんなことやらかすとはな。びっくりだ」

別の隊のライオットのパイロットが、続けてそう言ってきた

「どうも」

わたしは、素っ気なくそう答えた。

すると

「上坂。上坂准尉」

「はい」

声をかけてきた隊長に、わたしはそう答えた。

「単独行動は慎めと言ったはずだ」

『やっぱりそう言ってきたか』

わたしはそう思った。ああいうことをすると、いつもこう言われる。当たり前だけど。

因みに翻訳機能は、通信機器にも使われている。モニター等に映る情報にもだ。それもこっちが設定した言語で翻訳される。当然こっちの方も、日本語に設定してある。

「ですがあの状況ですと、誰かが前方のタトルコスを止めに行かないといけなかったと思います。でないと、本当に全滅していた可能性があります」

わたしは、隊長にそう言った。そして。

「しかも重火器、バズーカ砲を装備していたタトルコスもいました。アレらがこちらに攻撃してきたら、その可能性は更に高くなっていたでしょう」

続けてそう言った。実際にはそうならかったけど。わたしに対して攻撃を仕掛けてきた。ライフルを装備したタトルコスを全面に出せばいいのに。

「それに敵は撃破しました。その後、そちらに援護もしました。それによって、形勢がこっちに傾いたと思います。だから敵も降伏したんでしょう」

わたしがそこまで言うと。

「屁理屈ばかり言いおって。話には聞いていたが、こちらの言葉も聞かずに単独行動。本当に聞いていた通りだな」

隊長が、顔を引きつかせながら、わたしにそう言ってきた。

わたしが、この隊に配属になったのは、つい先日。そして今回の出撃が、この隊での初任務。だけどわたしの話なり、噂なりは聞いているようだ。だけどそんなのは、自分の隊の他のパイロットはもちろん、他の隊のパイロットも知ってることだ。わたしのことは、それなりに噂になってるし。

そして

「それではこれで失礼します。隊長」

そう言ってわたしは、隊長に敬礼すると、その場を後にした。


「自分の隊長に、あの物言いって。配属早々」

「それに配属早々、いきなり単独行動って。しかも隊長に一言も言わずに」

周りから、そんな声が口々に聞こえた。こんな時、翻訳機を外したい気持ちになるけど、そうもいかない。


「あんなぶっきらぼうな態度取って。せっかくの可愛さが台無しだぜ」


可愛さが台無し。


そう言ってもらって構わない。


可愛いだの美人だのって言われるより、そう言われる方が、わたしにとってはいい。


『…だって、そんなこと言われたりしてたから、わたしは…』


…いい。そんなこと考えたって仕方ない…。


目的を叶える。


ただそれだけのために、わたしは戦場で戦ってるんだから。


目的を叶える。


ただそれだけのために。












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