第2話 プロローグ②

 ライオット。


 それがわたしたちが乗るHWMの機体名だ。


 汎用性に優れた、いかにも量産機という機体。操作性やらも、それに相応しいといったものになっている。

 装備といったものもそうだ。特に特出した装備はない。

 だけどそれでいい。その方がわたしにとっても好都合だ。

 そして今装備されているのはライフル。実体弾武器。有名なロボットアニメやらにあるようなビーム兵器じゃない。そんなのはまだ実用化されていない。

『もっとも開発中だとかって話を聞いてるけど。それならそれで、さっさと完成させて欲しい』

 それが実用化されたら、わたしの目的に近づける。そんなのが武器になってくれたら…。

『…まぁ、どっちが先になるかだけど…。…出来れば…』

 すると。

『敵機捕捉。各機、体勢を整えろ』

 隊長からの通信が来た。あっちもようやくHWMを出して来たってことか。もっとも、だからこうして出撃してるんだけどね。

『出てくるなら、さっさと出てきなさいよ。正義のヒーローでもないんだから』

 わたしはそう思った。

 戦場の主役は、今やHWM。だけど正義のヒーローっていうわけじゃない。

 所詮は兵器。だったら張り子の虎みたいにしないで、さっさと出せばいいのよ。

『…まぁいい。…どうかわたしの目的が叶いますように…』

 敵の機影が見えた。あの機体は…。


『タトルコス。重火器装備してる機体もある』


 タトルコス。このライオットよりも性能が劣る。何せこの機体より、一世代前の機体。あんなのが相手なの?

『…全く…。また目的が叶わないかも…』

 しかもわたしたちより、数が少ない。モニターで見る限り六機。こっちはわたしたちの小隊を含めて十二機。…やめてよ。全く…。

『…だけど分からない。戦場では何が起こるか分からない…』

 軍に入って、HWMに乗った最初の頃なら、こっちの勝ちだと思っただろう。

 だけど今は違う。色んな戦場を経験してきた。


 何が起こるか分からない。そう思えるようになった。望んでそうなったわけじゃないけど。


『…どうか、何か起こってくれますように…』

 すると。

 ズドォーン!!

 わたしたちの隣の小隊が攻撃を受けた。待ち伏せ?まだいたわけ?

『だけどレーダーに反応がない。わたしたちがいる、この射程内なら、レーダーが反応してるはず』

 わたしは、攻撃してきた方を見た。あれは…。


 ボーンワーカー。


 作業用のワーカーに武器を取り付けた簡易兵器。あんなのHWMの戦闘が終わった後に出てくるはずなのに。


 ズドォーン!!

 また別の小隊が攻撃を受けた。相手は同じボーンワーカー。ゾロゾロと出てきた

 ズドォーン!!ズドォーン!!

 小隊の油断をついて、ボーンワーカーたちが、次々と攻撃してきた。

 小隊たちが、次々と体勢を崩していく。すると。

 ドォーン!!

 前方のタトルコスとは、別のタトルコスが地面から出てきた。そして。

 ドドドドッ!!

 体勢を崩した小隊たちに、ライフルで攻撃を仕掛けてきた。


『…なるほど。そういう作戦か…』


 HWMのセンサーが反応するのは、HWMの動力出力だけ。戦車や戦闘機には反応しない。ボーンワーカーにしてもそうだ。そもそも、そんなのに反応する必要がない。だって警戒する必要なんてないから。

 HWMにしてみれば、そんなもの蟻か蚊みたいなもの。敵とすら言えない存在なんだから

 だけど今回は違う。相手はそれを逆手に取った。

 ボーンワーカーで相手を撹乱。そうなった隙を見計らって、地面に潜ませていたタトルコスを出して、小隊を攻撃する。

 地面に潜まれていたら、センサーにも反応しない。少なくとも、行動を起こされるまでは反応しない。しかもボーンワーカーに体勢を崩された状態だったら、反応に気づいても対処に遅れる。

『手練れだな。だけどこんな手練れだなんて報告聞いてないんだけど』

 でも今はどうでもいい。相手の作戦通り、小隊たちが崩れていってる。各個撃破みたいな感じになって来てる。

『各機!!体勢を立て直せ!!他の小隊と連携しろ!!』

 わたしたちとは別の小隊の隊長が、そう叫んでいる。こんなの聞かせないでよ。

『早く!!早く援護に回れ!!急げ!!』

 隊長が、わたしたちにそう言ってきた。

『…援護ね…』

「隊長。前方のタトルコスが接近してきました」

 わたしは、隊長にそう伝えた。

 前方のタトルコスが、チャンスとばかりに、わたしたちに接近してきた。こんなので援護なんか行っても、その隙にやられるだけ。隊長はそれが分かってない。きっと。

『…まぁいいか…。…わたし的にはチャンスかも…』

 わたしはそう思った。

 自分たちの部隊のことを考えてのチャンスじゃない。


 これはわたしの個人的なチャンスだ。


『こんな作戦考えられるなら、乗ってるパイロットも手練れかな。一世代前の機体とはいえ、その辺はパイロットの技量で補えるだろうし』


 ……それなら……。


 スゥー。

 わたしは小さく息を吐いた。

 そしてコントロールスティックを握ると、力強くペダルを踏んだ。

 すると。


 ギューー-ン!!


 わたしのライオットが、勢いよく前に突進していった。

 向かう先は、もちろん前方のタトルコス六機。そしてそれに向かっているのは、わたし一機だけ。

『おい!!上坂!!勝手な行動は…!!』

「…うるさい…」

 プツン。

 わたしはそう呟くと、通信を切った。


 六機を相手に倒せる自信があるからこうしたのか。


 違う。


 そんな自信があるからこうしたんじゃない。そんな考えでこうしたわけじゃない。


 そんな気持ちなんて、少しも抱いていない。


 わたしがこうした理由は。


「わたしの目的、叶えてよね!!」


 わたしは、前方のタトルコスにそう叫んでいた。


 自分の目的を叶えてもらいたい。


 それが理由だ。
















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