第7話 私の方が仲良いし

「御神楽さんが何で……二人で?」

「あー……えーっと……ですね」


 なんと言ったらいいのやら……と困った様子の結、どうやら助け舟を出した方が良さそうだ。

 幸い今日ライブに行ったという事はバレていない、だが『俺と一緒に居た』という事が厄介だ。

 さっきそこで会ってお茶してました……で通用するかなぁ。

 とりあえずそれっぽい事を言っておこう。


「ちょっと話したい事があってさ、そこでばったり会ったから丁度いいと思って話してたんだ」

「それです、それです!」


 乗っかるように結が高速で頷く。


「そう、なの? ……ごめんなさい、二人ってあまり仲の良いイメージが無かったから」


 結がぴくりと動く。


「ま、まぁ……俺はドルオタだし、分からなくも無いけど」

「そんな事はないけれど……あの、というか雨森君、ちゃんとメッセージ見てる?」

「え?あれ……あー既読無視してるな」


 雛森とのメッセージを開くと、文章的に返信してなきゃおかしい内容だった。


「私は別に気にしてないけれど……その、友達だし……ちゃんと返して欲しい」

「友達……」


 結が小声で呟きながらまたぴくりと動く。


「ごめん!気をつけるよ」


 黒江と通話してた時に来てたやつだな……確か寝落ちしちゃったから、そのまま気付かずにいたのか。

 雛森って確か友達少ないとか言ってたし、そこそこ気になっていたのだろう……申し訳ない事をした。

 メッセージは今後気をつけるとして、今はとにかく結の為にも一刻も早くここを離れなければ。


「あ、じゃあそろそろ俺達は……」

「私ならそんな事気にしませんけどねー……というか気にしすぎじゃないですか?」

「……は?」


 え?結さん?


「友達なんですよね? まぁ彼女だとしてもちょっと重すぎると思いますけど……楽な関係性じゃないと雨君も大変だと思いますよ」

「え、いや大変とか無いけど……」


 一部を強調して煽る結に、雛森も反論する。


「お、重くないし……! わ、私は雨森君を大切な友人だと思ってるからこそ、自分の素直な意見を言ってるだけ! というか『雨君』って呼び方は何……教室ではすごい不機嫌そうに話してたのに。可哀想に……あなたと居ると

「いや、苦労も別に……」

「「ちょっと黙ってて(ください)」」


 ……何これ、なんで俺がモテ男みたいになってんの。

 実際は『友達としての俺』を取り合ってるだけなんだけど……周りから見たら完全に痴話喧嘩だ。


「雨君とは三年前から友達なんです! 高校入ってここ最近で友達になったばかりのあなたとは絆が違うんですよ! 絆が!!」

「へぇ……絆、ね。じゃあ二人で遊ぶ事もよくあるの?」

「そりゃ結構ありますけど」

「今日が初めてだ、嘘は良くないぞ」

「ちょっと雨君!」

「……ふっ」


 結の言葉を聞いて鼻で笑う雛森。

 それを見て記憶の中にある真面目な雛森が上書きされていく、素はこんな感じだったんだぁ……。


「……な、何ですか。何がおかしいんですか」

「別に? その感じじゃ遊ぶどころかろくに通話もした事ないんじゃないかって思っただけよ」

「雛森とも無いけどな」

「ちょっと雨森君!」

「……ぷぷ」


 お返しとばかりにわざとらしく笑いを堪える結。

 結は昔からこんなイメージだから上書きしない。


「じ、じゃあ今日通話しましょうよ、私と雛森さんのどっちがいいか選んでもらいましょう」

「べ、別にいいけど? 選んで貰えなくても雨森君に迷惑かけない事ね」


 そう言って二人は俺を見つめる。

 いや……意味が分からないし、そもそも通話したとしてこいつら俺と何話すつもりなの?

 百歩譲って結は分かるよ、今日のライブの感想とかあるし。

 でも雛森は違うよね、たまたま会っただけだよね。

 ちゃんと分かってて言ってるの? 結構おバカなのかな。

 ……まぁどっちにしろ今日は無理なのだが。


「先約があるから無理」

「「えっ」」


 黒江の事だ……あ、二人が静かになったぞチャンスだ!


「というか俺と結はそろそろ行くから!また明日な雛森!」


 早口で先程言いかけた事を話しお会計へと向かう。


「あ、ちょ、ちょっと待って!?……すみませんねー?雨君とはまだ遊んでいる途中でしてー」

「ぐっ……分かったわ、また明日ね」


 去り際に雛森が悔しそうに手を振っている姿が見えた。




「結、オタクバレしたくないんじゃ無かったのか?」


 外に出て早速さっきの行動について問う。


「すみません……その通りです……」

「まぁ雛森の事だからバレたとしても言い触らしたりはしないだろうけどな」


 十中八九バレては無いと思うが、雛森は大丈夫だろう。

 さてこれからどうしようか……等と考えていると空がオレンジ色になっていることに気がついた、もう夕暮れ時だ。


「……今日はお開きにしますか?」

「うん?あー」


 そんな考えに気づいたのか少し残念そうに結は言った。

 だらだらと話してるのも楽しいだろうけど……今日はもう解散にしとこう。


「……そうだな、ここら辺にしとくか。これからは別にいつでも遊べるしな!」

「はい……そうですね! また遊べますもんね!」


 学校でも話せるし……というか隣の席だしな。


「それじゃ!また明日ね、雨君!」

「あぁ!気をつけてな、結!」


 結が歩き出したのを確認した所で俺は空を見ながら体を伸ばした。

 んー……! 今日は凄い楽しい一日だった……っ!

 さて、俺も帰るかと歩き出そうとしたタイミングで遠くからおーいと声が聞こえた。

 結の声だ、なんだ忘れ物か?


「オタクバレはしたくないけどー! 雨君と友達なのはバレてもいいですからー!!」


 そう言って走って行った。

 なんじゃそりゃと小さく声に出し歩き出す。

 ……口角が下がるまで少し時間がかかりそうだ。

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