第3話 かっこいい奴

 時はホームルームの時間。

 昨日は少し寝るのが遅くなった、欠伸あくびが出る。


「じゃあ昨日話した通り委員長やりたい人挙手〜」

「「はい」」


 我らが担任、光ちゃんがそう言うと二人の声が教室に響いた。


「あら、二人か。じゃあジャンケンとか……」

「いえ!多数決にしましょう!絶対その方がいいです!!」

「え? そ、そう?まぁ二人がいいならいいけど……雛森ひなもりさんもそれでいい?」

「はい、問題ありません」


 彼女の名前は確か……雛森澪ひなもりみお

 黒髪長髪で良くも悪くも真面目そうな女子生徒という印象、委員長に向いていると言える。

 その後、一分くらいでスピーチし多数決で決める流れとなり、雛森からスピーチをする事になった。


「雛森澪です、このクラスを清く正しく導いていきたいと考えています。中学の頃も委員長の経験はあるので問題ありません、是非私にやらせて下さい、よろしくお願いします」


 ぱちぱちぱちと拍手を送る。

 過去の経験もあり、自信に満ち溢れていていいスピーチだった。

 続いて黒江が前に立つ。


「黒江ひよりです!私が委員長になったら皆が話しかけやすい委員長になってみせます。これから体育祭とか文化祭とか大きな行事もあるし、そういう場で意見を出しやすくしたいです。あ!ちなみに私も中学の時委員長やってたよ!? だから安心して欲しい!!」


 笑いが起きクラスが明るい雰囲気に包まれる。

 黒江が自分の席に帰ると周りの生徒達から良かったよー等と声をかけられている姿が見えた、友達作りも順調そうだ。

 その後多数決が行われ……無事黒江が学級委員長に選ばれた。


「っ……」


 ふと雛森を見ると悔しそうに下を向いていた、そんなに委員長になりたかったのだろうか……まぁ内申とかもあるし、珍しくもないか。

 ちなみに黒江が投票数で確実に勝っていたので俺は雛森に挙手した、黒江はなんか睨んでた。




 昼休みになり、お弁当箱を開ける。

 母のご飯は本当に美味しいので楽しみの一つだったりする、調理師免許持ってるし。

 いただきますと手を合わせ唐揚げを口に運びながら、スマホを開くと何やらメッセージが溜まっていた。


『(黒江)何で私に投票しなかったのよ』

『(黒江)おかしいじゃん』

『(黒江)おかしいじゃん』


 二回同じ事を……ふと黒江の方を見ると楽しそうに他の女子生徒とご飯を食べていた。

 あの笑顔の裏でこんなメッセージを送っているとも知ったら周りの女子生徒は何を思うのだろうか……。


『(雨森)お前は俺が投票しなくても勝ち確だっただろ』

『(黒江)そういう事じゃないじゃん!あんたは私の味方じゃなきゃダメじゃん!』


 返信早……えっ?送った瞬間に来たけど。

 ばっと黒江を再度見ると変わった様子は無い、さっきと全く同じに見える。


『(雨森)俺はあーやって前に立ってスピーチするようなかっこいい奴を尊敬してるんだよ!だから雛森も頑張ったという意味を込めて雛森に投票したんだ。お前にはこうして言葉で伝えられるからな』

『(雨森)黒江が頑張ったのは知ってるよ、お疲れ様。雛森のスピーチに合わせてアドリブで話したんだろ。笑いも取ってたしかっこよかったよ』

『(黒江)……あの、分かってるならいいのよ、別に……。昨日あんたに言われた事を実践しただけだし? あんたこそ流石というか? こっちこそ感謝というか?』


 なんだこいつ。


「ちょっといいかしら」

「うん?」


 声が聞こえたと思ったら目の前に雛森が立っていた、誰かに声をかけたらしい。

 しかし、周りを見渡しても他に生徒はいない。


「俺……?」

「うん、ここじゃ話しづらいんだけど、少しいい?」

「別にいいけど……ちょっと待って」


 残り少しのお弁当を口に放り込むと着いてきてと雛森が言った。

 さっきのスマホの会話でも見られた?いや流石にそれは無いか……まぁついて行こう。

 教室を出る最中、黒江の声が聞こえた。


「ご、ごごごめん私トイレー!!!」

「う、うん。いってらー……ひよりどうしたんだろう」




「それで、どうしたんだ?」

「さっきの委員長のスピーチ、なんで私に入れたの?」


 スピーチ? なるほど、どうやらスマホの会話は見られていないみたいだ。


「なんで俺だけにそんなこと聞くんだ?他にも雛森に入れた人はいただろ」

「雨森君だけが最初黒江さんに挙手しようとして辞めてた。そんなにギリギリまで悩んでどうして私に入れたのかなって」


 別にあいつが確実に勝てる票数だったからってだけなんだけど、ここは正直に答える。


「自分が経験者だと伝えていたし、向いてそうだなって思ったから。あと人前でスピーチする姿がかっこよかったから。黒江は投票数的に勝ってたし、だったら雛森に少しでも良かったよって伝えたいなと思った」

「……そ、そう。何か思ったよりストレートに伝えるのね雨森君」

「そう? 事実だし」

「も、もう分かったから」


 そう言ってしばらく黙り……また雛森が口を開く。


「……私の何がダメだったと思う?」

「スピーチ?」

「うん」

「俺の意見でしかないから真に受けない方がいいと思うけど……」

「いいの、教えて欲しい」


 とは言われても別に悪くはなかったと思う。


「真面目すぎ、お堅すぎというか……黒江との一番の違いは『笑い』が起きてた事だな。あれって聞いてる側が予測出来なかったスピーチだから、ふふってなったと思うんだよ。それに体育祭とか文化祭とか皆が楽しみであろう行事の事も絡めて話してた、皆が耳を傾けたくなる様なスピーチだった」

「耳を傾けたくなる……」

「あーいうのってさ、聞いてる側からしたらそんなに真剣に聞かないだろ? だから黒江は『笑い』とか気になる『ワード』を入れたんじゃない? まぁ自己紹介の時からそういうの得意そうだったし気にしなくていいと思うよ」

「なるほど……確かに私のはありきたりで意外性が無かったかも……」


 そもそも委員長決めるスピーチでそんなに考えなくていいと思うのだが、生徒会の選挙じゃあるまいし。

 そんな事を考えていると雛森はスマホを取り出していた。


「あの……私友達少なくて、雨森君……その、連絡先交換しない?」

「え? いいよ」

「う、うん!これ私の……じゃあ、ま、またね!」


 そう言って走り去る雛森……結局聞きたかったことに答えられたのだろうか。

 昼休みも残り少ない、よく分からないけど俺も教室に戻ろう。


「雨森の奴……直接言いなさいよ」


 影で聞き耳を立てていた黒江には気づかなかった。

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