第2話 まず身長、体重、スリーサイズから

「え……嫌だけど」

「はぁ!? 何でよ!!!」


 普通に断ると黒江はもぎゃもぎゃと騒ぎ出した。

 俺の腕を掴む力がどんどん強くなる……痛い痛い……痛いって!


「そもそも何で俺なんだよ、ただのドルオタだぞ」

「ふん、隠さなくてもいいわ、私は知ってるのよ。あんたとあの風祭夏が教室で話していたのを偶然聞いちゃったからね」

「教室……」


 風祭と最後に話した放課後の教室……そうか、そういえば誰かいたんだっけか。

 結局あの後何かが起こる事も無かったから俺の勘違いだと思っていたんだが……こいつがあの時の犯人か。


「誰かに言いふらしたりしてないだろうな」

「な、何よ……してないわよ、誰かに話したのはこれが初めて」

「ならいいけど」

「それよりさっきの続き!お願い雨森!一生のお願い!!」

「……あのなぁ」


 あの日起きた放課後の出来事だけでよくここまで行動出来るものだと感心するがそもそもこいつは大きな勘違いをしている。


「あれは風祭が頑張っただけだよ。俺がした事はほんのちょっとの助言くらいだ。それにあいつの変わりようはすごかったって思うかもしれないけど元から光るものがあったしな」

「あんたがちょーっとだと思ってるその助言が私には必要なの」

「……仮にそうだったとしても俺がお前に力を貸すメリットが無いだろ」

「それはそうね……だったら『アイドル同好会』に私が入るとかどう?」

「え?」


 あれ?


「もちろん勧誘も手伝うわ、確か同好会の設立は四人必要だったはずよね」

「な……っ!?」


 な、なんだと、こいつ……!?

 思っても無い答えが来たな……。

 今の俺は最低限同好会の設立が先決だ、黒江が居るならかなり楽になるだろう。

 それに黒江みたいに今はアイドルに興味が無い生徒でも今後好きになることだってある、そこは俺がどうとでも出来る……悪い話じゃない。


「し、しかしだな……そもそも黒江、別にお前一人でも充分人気者になれるんじゃないか?」

「それは既に実践済み。私が小学生の時から積み上げてきたものはあんたと風祭がたった一年で追い抜いて行ったわ……気づけば追いつけない程にね」

「……」

「お願い、私の勘が言ってるの。『雨森だ』って」


 真っ直ぐに黒江は俺の目を見つめる。

 この目を本気の目だと俺は知ってる、過去に見たことがあるから。


「……分かったよ。その代わり後になってやっぱりあんたなんて大したこと無かったとか言うなよ」

「ほんと!? やった……!後で取り消すとか無しだから!」

「そっちこそ『アイドル同好会』の件忘れるなよ」


 こうして俺は黒江をプロデュースする事になった。




 その後時間も時間だったのでとりあえず今日は帰ったら連絡してと言われ、黒江とは連絡先だけ交換した。

 さて約束は約束。

 俺も本気で黒江をプロデュースするつもりだ。

 その為には情報が足りないので帰りに買ったノートを開き黒江にメッセージを送る。


『(雨森)とりあえず情報が足りない、黒江の事を教えてくれ 』

『(黒江)おけ、趣味はギターとかライブ行ったりとか。好きな物はチョコとか……かな』

『(雨森)いやまず身長、体重、スリーサイズから』

『(黒江)待て』


「え……黒江から電話かかってきた」


 別にメッセージでいいのになと考えつつ応答をスワイプする。


『もしもし?』

『おい……どういう事よ。女子に体重とかスリーサイズとか……』

『はぁ? そりゃ聞くだろ。俺から服の意見だって出せるし、ダイエットもする事になるかもしれない』

『いや……ぐぅ……分かったわ』

『サバは読むなよ』

『読まないわよ!』


 うるさ……少し音量を下げよう。

 その後、何度か聞き直すことはあったが大体の情報は手に入ったのでノートにすらすらとまとめていく。


『……あのさ、少し雑談になるけどいい?』

『いいけど』

『あんた風祭夏とはどうなったのよ、あれから話してる姿見てないけど』

『元からそんなに話してる姿は見せてないはずだけど……まぁあれから一回も話してないな』

『一回も……喧嘩でもしたの?』

『別にそんなんじゃないよ。あいつにはもう俺の力は要らないなって思ったから、そうしただけ』

『ふぅん……せっかく高校も同じなのに』


 黒江の言う通り風祭も同じ高校に入学した。

 確か二組だったかな、元気でやってるといいな。

 まぁ俺の心配なんか要らないか。


『それより黒江、“人気者”になるってのは分かったけどどうしたらその目標を達成した事になるんだ?』

『私らの高校、毎年十二月にミスコンがあるのよ。そこで一位を取る事が出来たら達成したと言っていい』

『なるほどな……思ったよりちゃんと考えてたんだな』

『当然』


 十二月か、そんなに余裕があるわけじゃない。

 幸い既に黒江は『可愛い』と言っても差し支えないだろう。

 となると明日からでも黒江の魅力を知ってもらう努力をしなければならない。

 最初から全校生徒とはいかない、まずは俺達のクラス一年一組だ。


『とりあえず学級委員長やっときたいな。なんかあった時に黒江に話しかけてくる生徒も増えるだろうしな』

『うん、いいと思う。明日のホームルームで決めるって言ってたもんね』

『一応他に立候補者が居た時、ジャンケンで決めるとかは絶対に避けた方がいい、多数決で勝負するべきだ。そこまでいければ黒江に負けは無い』


 今日の自己紹介を聞く限り問題は無い。


『そんなに褒められるとなんか照れるわね……一分くらいのスピーチ考えといた方がいいのかな、少し真面目なの』

『いや、別にお堅くなくていい。厳しい印象を与えても逆効果だし、そもそも委員長決めるのに真面目に投票する奴も少ないしな』

『……なるほど、分かった』


 気づけば時計の針は十一時を回っていた。

 今日はこの辺にしとこうと通話を切り寝ようかと考えていたが……もう少しだけ黒江のノートをまとめる事にした。

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