ドルオタな俺、プロデューサーになる。
アマオト
第1話 私を人気者にして
輝いていた。
その人はキラキラと輝いていたんだ。
彼女の名前は『リン』、俺がドルオタの沼に落ちたきっかけであり最高のアイドル。
どうしてハマったか、理由はいくつかある。
シンプルな可愛さ、キラキラしたステージに立つ姿、観客の一体感。
でも一番は『一生懸命さ』だ。
歌は普通、ダンスも別に上手くない……でも二回目、三回目と見る度に成長していく姿、汗をかきながら笑顔を振り撒きステージに立つ彼女達の姿は……最高に綺麗だった。
だから俺は心を打たれたのだ。
「もう俺は必要無いな」
夕日の差す教室で彼女……
「――え」
「もう十分だろ」
「待って!な、なんで……? そんな急に……」
「俺なんかが教えられる事は全部教えた。何度も言ったけど風祭が変われたのは風祭の努力の成果だ、俺がしたことなんてほとんど無い。それに……これ以上こういう風に会うのもよく思われないだろうしな」
「そ、そんな事ないよ!全部春君のおかげだよ!?それに私は……」
「今やお前は学校一の人気者、かたや俺は中の下ってとこか?変な噂でもたったら今までの努力が無駄になるかもしれない」
「……そんなの、知らない。嫌だ」
珍しく大きな声を出しスカートをぎゅっと握りしめる風祭の姿を見て……苦笑する。
ああ楽しかったな、名残惜しいが……終わりは必ず来る。俺の仕事はここまでだ。
「俺もそろそろ本格的に受験勉強始めなきゃいけないんだ、自分の事に集中したい。納得してくれ、別に今生の別れって話じゃないだろ」
今更受験勉強なんて必要無い、そのくらい自分の学力には自信がある。
つまるところこれは風祭と距離を置く為の“嘘”だ。
「……なら連絡だけでも」
「連絡? ……まぁたまにならいいけど、さっきも言った通りもう教えられる事は無いぞ」
「……分かったよ。納得する……今はね」
小さな声で最後に何かを言った気がしたがよく聞き取れなかった。
「良かった、じゃあ俺は買い物してから帰るから先に帰るよ」
「あ、待って。春君って『
「ああ、そうだよ」
「そっか、分かった。またね春君」
「……? ああ、またな」
そうして俺は教室を出た。
ドアを閉める時、廊下を走る音が少し遠くから聞こえた。
誰かに見られた……? よからぬ噂が流れる様なら対策を考えなきゃいけないな。
ふと、教室に残る風祭の後ろ姿を見ると夕日を見ている様だった。
あの時彼女が何を考えていたのか今となっては俺には分からない。
そして……その日から風祭と俺は会話を交わさなくなった。
※※※
春、希望の春。
桜舞い散るこの季節、俺は意気揚々と自転車のペダルを踏んでいた。
やっと……やっと夢が叶う。
俺の夢は高校で『アイドル同好会』を作り同士達と語らう事。
今の時代SNS等で同じ趣味を持つ仲間を探すのはそこまで大変では無いが、リアルで会うとなると中々厳しい。
そんな訳で青春の一ページを刻む為、部員集めから始めるつもりだ。
「おはよう〜初めまして皆〜。私はこのクラス一組の担任の
担任がそう言うと一番前の席に座る女子生徒が勢いよく立ち上がった。
「
「趣味とかある〜?」
「あ……あー!そうですよねーへへ。ギターが好きなので趣味です!あんまり上手くないけど!」
はははと笑い声が起きた。
トップバッターにしてクラス内の雰囲気を変えた。
明るく笑顔が眩しく何より外見が『可愛い子』だ。
黒江ひより……ツインテールが特徴的な女子生徒。中学が同じだったので覚えている、まぁ実際に話した事はないけど。
その後もある者は当たり障りのないことを言い、またある者は上手く話せず顔を赤くしていた。
茶道や将棋が趣味だと言う人も居た、中々に渋くて良いな。
「じゃあ次、雨森君〜」
「はい」
メガネをクイッと上げ起立する。
「雨森春です、得意な事は勉強で趣味はアイドルの推し活です」
「アイドル?へー誰が好きなの?」
「すみません光ちゃん先生、あまり詳しく話すとみんなに引かれてしまうので勘弁してください」
「えーそうなの? 仕方ないか〜」
「『アイドル同好会』を作るつもりなので興味のある方は気軽に俺に話しかけてください。ちなみに俺の推しは
「いや言うのかよ!」
最初に自己紹介をした黒江のツッコミにより笑いが起きる。
悪くない結果だ、勧誘も出来た。
しかし黒江が自分からつっこんでくれるとは思わなかったな、まぁ深い意味は無いか。
あとは放課後を待つだけ……ふふ、待ってろまだ見ぬ同士達。
「よし、勧誘のポスターも貼ったしあとは待つだけだ」
放課後、教室に戻り自分の席に座る。
二週間ほど前から準備をしてきた勧誘ポスターを部活勧誘の掲示板に張りつけ、先生に『アイドル同好会』設立の許可も貰ってきた。
ただ部員を最低四人集めなければいけないらしい、部室も欲しいし何とかしないとな。
気づけば俺以外の生徒は居なくなっていた、教室の時計を見ると現在午後六時……今日はそろそろ厳しいかな。
そう思い帰り支度をしていると、教室のドアが開かれた。
「雨森!? やっと見つけた……他には誰もいないわね」
「黒江……?」
キョロキョロと辺りを見渡し黒江は歩き出し、俺の机の前で足を止める。
「……まさか黒江、『アイドル同好会』に興味があるのか!?」
「違うわよ、興味は無いわ」
「なんだ……期待して損した」
はぁ……とため息を吐き立ち上がると黒江は俺の手を掴んだ。
「なんだよ」
「待って……こういう事言うの初めてだし緊張してるの」
すーはーと深呼吸をしだす黒江。
意味が分からん、というかこいつ自己紹介の時と話し方違くね、猫かぶってんのか? けどそれを俺に見せてる時点で意味無いと思うが。
よし……となにやら準備が終わった様で黒江は口を開いた。
「私を……私を
「はぁ……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます