第9話 夜に

「どうしようって?」

 晴品が口にして、レンは「魔物」と答える。

 みんなが「あー」という顔をして、

「でも、ここはナナちゃんが幸運の力で見つけた場所だから、平気じゃないかな」

 さはらは小さい口で肉を噛み締めながら言う。

「幸運って、どこまでが幸運なのかな?」

 それにナナが言い、首を傾ける。


「見つけたことが幸運なら使用するのは幸運じゃない?」

 降方が同じく首を傾けながら言う。

「ま、考えてもしょうがねえだろ。男子で順番警戒しようぜ」

 最後の一口を押し込みながら晴品が言って、男子全員は「それでいいぞ」と女子に向けて顔を見る。


「え、え、待ってよ。服まで借りてさ、そんなん悪いじゃん」

 一葉が困ったように言う。他の女子もどうしようという感じに顔を見合わせてたら、

「困るなら任せろって、な」

 安堂の一言が女子の背中を押して、火の番をしながら男子が二時間交替で見張ることになった。


 そんな寝静まった夜。

 オレと順番的にレンが並んで起きていた。

 レンは木を炎に焼べつつ、ちょんちょんと位置を正す。

「俺、こういうの初めてだから、みんなには悪いけど、ちょっと楽しい」

「いいんじゃね」


 でも魔物がいるんじゃねえ、とレンは口にする。

「この先、街道があるってことは街があるってことだし、なんなら海が見えるところまでいけるかもしれないぞ」

 そういうとレンは、ぱぁと顔を明るくしてオレを見、そして自分の髪を持ち上げた。


「気にならなかった?」

「気にはなってた」

「誰も突っ込まないから、いい人たちなんだなってのは分かってるんだ」

 炎で、レンの髪はオレンジ色になっている。

「俺、クォーターなんだ。でも、両親は日本人で黒髪。でも俺は先祖返り。しかも、こんな目で。それで『鑑定』だよ。俺にぴったりだ」

「……いやなのか?」


 オレの言葉にレンは首を振る。

「元の世界だったら嫌だった。ここに来た時は心から安心した」

 ファンタジーな世界で嬉しかったよ、とレンは言う。


 そういえば安堂が剣を出した時、人一倍テンションが高かったなと思い出す。

「本当に嬉しかった。騒がしくても安心する」

 前の世界で何かある、と言って、こんな容姿で日本にいたなら注目の的だ。

 嫌なことがたくさんあっただろう。


「始まったばっかだけど、レンの好きなことしていいんじゃね」

 危ないこと以外なら誰も止めねえよ、と付け足してレンを見た。

「でも、どっかで足手まといになりそうで怖いかな」

「だったら助けに行ってやるよ」

 それにレンは目を見開いて、


「そうかな」

「そうだろ」


 と、言ってやり、話は終わった。

 手元の時計では、あと一時間は当番だ。誰か一人は何時間か起きていないといけないというところに、オレが徹夜すると立候補した。

 何も出来ないのは嫌なので、明日に支障がない程度にするからと男子全員に言い含めて起きている。


 沈黙は嫌いじゃない。レンも嫌いじゃないらしく、静かな夜がオレたちの前に落ちてきて、王都のこととか考えたが、これは明日みんなで相談しないとな、と頭の中で片づける。


 ちなみに小さくなったクリスタルは一葉が持っている。

 魔法使いだし、丁度いいだろう。危ないようならオレが持つつもりだったけど、一葉は自分が持つと言い、袋に隠してしまった。


 これで、晴品とさはら、一応オレの能力は分からないまま一日を終えていく。

 攻守と魔法は分かったのだから、少しは楽にいけるかもしれない。


 誰も傷つかないのが一番だ。


 まあ、なんでオレがステータス0で、みんなが〝超〟特化なのが気になるけど、もう答えてくれる人もいないので、慎重に生きるしかない。戻る方法もないしな。

 でも、人によっては、今の世界がいいというヤツもいるかもしれない。

 オレは否定しない。そいつが生きてくれるなら、それでいい。

 大きなあくびをしたらレンに笑われたので「笑うなよ」とだけ言い、夜はふけていった。

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オレだけ〝超〟がついてない! 大外内あタり @O_soto_uti_ATR

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