第8話 失敗は成功のもと、です

「うっそー!」

 一葉が叫びながら地面に手をつく。

 言うなれば魔法が暴走した。そういうところ。


「思ったんですけど、これ失敗ですよね。一葉ちゃんとわたしで交互でやるべきでした。なぜ、失敗したか分からないですし」

 さはらは髪からポタポタと水を流しながら遠くを見ていた。

 見事に洞穴は水だらけになり、中で寝るなんてできなくなっている。


 どうするよ、ていう雰囲気の中、ナナが、

「もう一度、洞穴を焼いて無理やり乾かせばいいんじゃないかな!」

 ふむ、みんなの顔はそんな感じだった。

「今度は交互にやろう」

 コクコクと首を縦に振り、まずは、さはらが手を掲げて、

「火ッ、火ー!」と叫ぶ。


 周りは、すんっと何の音もしない。ならば、と一葉を見た。

「よーし、よし、やるぞー!」

「一葉ちゃん、こういうのはイメージです! 洞穴を乾かすイメージ!」

 失敗したさはらがアドバイスを送りつつ、自分は下がり、一葉を前にして避難する。


「乾かす、乾かすね。火、火、火」

 瞬間、洞穴から火が出て、一葉が「うわっ」と熱い風に目を瞑った。

 おそるおそる目を開けたオレたちは「おお」と感嘆の声が出る。

 洞穴が乾いているのだ。


「じゃあ、魔法使いは一葉だ!」

 マツリが喜ぶが、一葉は手を見ながら「もっと上手く使えるような気がする」と零して、ぐっと手を握る。


 怖いもの知らずなのか降方が洞穴に入って、壁をぺたぺた触り「本当に乾いてますよ!」と嬉しそうに言う。

「で、どうするよ。ずぶ濡れ」

 安堂が、一葉とさはらを指さして、ちょっとうんざりな顔をした。

 男女のこういうのが苦手なのかもしれない。


「とりあえず、もう一度、一葉さ、中に入って火をつけてもらおうよ」

 あまり気にしてないマツリが提案して、一葉を含んで頷いた。

 前と同じように木を組み立てて「火」と一葉が言った瞬間、ぽぅと小さな音をたてて木に火がつく。


 みんなで、わあっと喜びながら洞穴に戻ったが、ずぶ濡れ案件を見て、

「暖かい風とか出せないかな」

 またナナが思いついたように言うが「暴走するかもしれないし」と一葉は、火をつけた実績はありつつも乗り気じゃない。


「もうしょうがねえだろ」

 そう言ってオレは上着を脱いでシャツを脱ぐ。

「ひょっ」

 変な叫びが聞こえたが、そのままスラックスを脱いで、

「どっちか着ろ。オレ、何もやってねえし。今日は寒くも暑くもねえだろ」

 二人に差し出していると、

「サイズ的にぼくかなあ」と降方が言う。

「ちょちょちょちょ待ちッ、急に脱がないでよ!」

 一葉の言葉も尤もだが、

「風邪引くだろ」

 差し出して言えば、そろっと一葉が手を出した。その間に降方も脱いだらしく、さはらに渡して、男子は一回、洞穴から出て、夜になる空を見ていた。


「こういう世界だと星が綺麗だね」

 レンが空を見ながら言うと「……そうだなあ」と晴品が続く。

 うしろで「ゲッ、下着まで濡れてるんだけど」とか聞こえるが左から右へ耳の穴に通して聞かなかったふりをする。


「ごめん、男子。悪いんだけど」

「おー、外で寝てもいいぞ」

 一葉の声に安堂が気軽に答える。

「二つくらいツルない?」

「蔓?」

 ああ、とレンがいい「探してくるよ」と森の中に入っていた「この辺にあった気がしたんだけどな」という大きい独り言を出しながら、ひょいっと蔓を見つけてきた。


「あっ、ごめん。見ちゃった」

「いよいよ、こんくらい」

 二人のやりとりで蔓が渡され、少しして一葉の「土、土、うーん」という言葉が聞こえて何をしたいのか分かった。

 干したいだろう。


「もう見てもいいよ」

 くるりと見るとオレと降方が脱いだ制服を、一葉とさはらが着て、右奥になかったはずの洞窟にあるようなつららが四本、下から生えて蔓が物干し竿のように繋がっている。


「服、ありがと」

 一葉がシャツを着ながら、オレに手を振る。

 ここでもっとドキドキできたら純粋な男子なんだろうなあと思っていたら、隣の降方は、顔を真っ赤にしながら「はいっ、はいっ」と繰り返していた。


 一同、やっと落ち着いて、クリスタルさんがくれた干し肉と水に手をつける。

「ちょっと固いけどいけるね」

 マツリは、もぐもぐとしながら感想を述べて、ごくりと喉を通す。

 そして、レンが、今日はどうしようかと口にした。

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