第7話 はじめては上手く行きません

 相変わらず、森の中だがナナを先頭にして一列で歩いて行く。

 ナナは上を見ながら「なんか光の柱がどんどん細くなってくー!」と言い、足早になる。


「イッ」


 そんな声を聞いてオレは前を見た。

 殿はオレだ。オレが立候補して後ろにいる。何も出来ない自分だ。魔物の餌にして、みんなに逃げてもらおう作戦。言ったら怒られるかもしれないけど、一度は「オレを置いて先にイケー!」とかしたい。


 思考をフルフルとなくして、オレは前を見直した。どうも一葉が声を上げたみたいで、太ももを撫でている。

 切ったんだ。

 枝が四方八方に出ているせいで、何人かは擦り傷を負っているのだろう。

 特に女子なんかは足が出てるんだから、背の低い枝の植物が当たる。


「あともうちょっと!」

 後ろのオレは分からないが「洞穴だ!」という降方の声が聞こえた。

 やっとのこと森から出ると降方の言う通り、小さな広場があり、奥に洞穴がある。大きめの二メートルはあるぐらいか。


「待て待て、熊とかいたらどうするんだ」

 晴品が、みんなを遮って安堂を見た。

 よし、と安堂は剣を取り出すと、

「おれ、遅いじゃん……」

 と言いながら、しょんぼりする。

「撫で切りじゃなくて槍みたいに使ってみたら?」

 レンの言葉に「なるほど」と言い、槍のように剣を持ち直すと、恐る恐る入ってくるが、すぐに出てきた。


「ただの穴だ」

 言われて、みながぞろぞろと入ってく。安堂の言う通りだ。

 深くない、五人ぐらい寝泊まりできるような入り口は大きくとも浅い洞穴である。


「光の柱、消えちゃった」

 ナナが言い。誰もが、

「幸運だ!」と口にした。

 あれ、APPって幸運関係したっけ? とさはらは頭を傾げたが、現に「幸運にも寝泊まりできそうな場所を見つけた」のだ。


「一つ謎解決ー!」

 一葉がバンザーイと手をあげながら喜んでいる。

「あとわかんねえのは僕と一葉とさはらぐらいか?」

 何気なくオレを飛ばした晴品のケツを蹴る。

「わーてるって」

 けらけら笑う晴品は嬉しそうだった。


 実際のところ、オレは謎の人物である。

 ステータス0、なにができるか分からない。でも動けていることからして、平均的なところはあるのだろう。そう、表示されないだけで。

「こういう時、鈴貴くんはジョーカー的なポジションですよね!」

 さはらは嬉しそうに興奮している。


「……何できるか分からないから、あんま何したいってのないな」

 正直な話、晴品はSIZで分からないが、一葉とさはらのPOWとINTは何となく予想がつく。

 魔法などに使われるPOW。INTは知性……こっちも魔法かもしれない。

 宿泊施設を見つけたオレらは、どこかで気を張っていたのだろうか、何人か洞穴に入って座る。今日を終えるには最高のところだった。


「あ、薪とかしないと夜、ヤバくない?」

 一段落していた一葉は気づいたようで「どうしよっか」と周りを見た。

「とりあえず、木を拾ってくる?」

 ナナが提案して、一人二組で洞穴から見える位置にいることで各々拾ってきてくれた。そう、ぼっちあまりはオレのことだ。


 少し経ってから、余分に拾ってきたと、みなみな言いながらカラカラと木を地面に置いたが、次に目線を交差させる。

 そう、どうやってつけるのって話だ。


「キャンプでも道具使ってたし」

「あれは両手でシャコシャコするやつ」

「火種がないから難しくない?」


 夕方から夜になりそうな時間、せっかく解かれていた緊張が戻ってくる。

「約二名、魔法かもしれないヤツがいるだろ」と言ったオレに一葉とさはらが顔を見合わす。

「鈴貴っ! やってみる!」

 テレビで見たような木を中心に一葉とさはらが両手を向けて、

「火、火ー!」

 と言葉を出したら、


「ぎゃー!」

 次の瞬間、悲鳴が飛び出した。オレはそそくさと外に出て天井まで舐める炎を見ていた。

「あちちちち、うわっ」

 安堂が必死に外にやってきて、焦った一葉とさはらは「水ー!」と言って、ざぱん、というバケツをひっくり返したような水を浴びてしまい、沈黙が周りに流れる。


「うん、俺たちが悪い。もっと注意するべきだった。うん」

 逃げ出していたレンが頷きながら、ずぶぬれになっている一葉とさはらを見ながら、もっと考えるべきだったと口にした。

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