第4話 ちょっと逃げますね。でもエンジョイはします。

 そんな問答をしていると、さはらが、

「あの、確かに、このクリスタルさんはくれましたが、なんででしょうか。今は小ちゃくなっちゃいましたけど」


 オレたちに囲まれて手のひらだいになったクリスタルを、ひょいっと一葉が手に取る。

「ちょ、危なくねえか」

 安堂が止めるが、一葉は掲げたり上下に振ってみたりするが何も起きない。

「平気じゃね?」

 というよりも重要なの? と口にしたら、


「重要っていうかクリスタルってのはゲームの中じゃセーブポイントとか回復アイテムとか」

 降方が必死に説明するが、一葉は何とも思ってないらしい。


 そうなれば、みんなでツンツンしたりしていたが、ひょいって晴品が手をあげて、

「ここにいるの、不味くないか?」

 みな周りを見る。オレたちがいるのは草陰だが、目をやれば壊滅した王都があるのだ。

 誰もいないイコール誰かいる。オレたちがいる。

 下手人はここにいた。


「と、とりあえず逃げよう」

「どこに!?」

 降方と一葉が口にするが慌てるだけで何も進まない。ならば、

「あ。こういうサバイバルでさ、まずは水場を探すものじゃない?」

 レンの言葉に「それだ!」と口にして、オレたちはコソコソと草陰からでるが、行き先は分からない。

 こういうまとめてくれるヤツがいると助かる。

 だけれど、 発言したレンもどこになにがあるか分からない。


「とりあえず、街道沿いの草陰に隠れながら移動しようぜ」

 安堂が言うと、みんなコクリと頷いて街道より横道、獣道というのだろうか、そこを歩いていく。


 現地民に会うかもしれないという緊張感の中、みんな張り詰めていた。

 呼吸も荒くなってきたところで、サァという川の音が聞こえてワァと声が上がる。

 多分、馬とかそんな感じのものを休憩させる場所だと思われるが、今、この状況で出会った水場は天国みたいなものだった。


「水ー!」

「川ー!」


 叫びながら入ろうとしたところをレンに止められる。

「天然の川は危ないから……え?」

「どうしたの?」

 途中までのセリフ止まりに、入ろうとしたのも立ち止まりレンを見た。

「見える」

「見える?」

 レンの言葉に「?」と浮かべながら待ってると、

「俺の目に『水』『飲める』て書いてある」


「そ、それって最強スキルの鑑定じゃないですか!?」

 降方が叫ぶが、当人のレンは疑問符を浮かべながら、困ったように降方とオレの方を見た。なるほど、オレと降方はゲームとかに詳しいカテゴリになっている。

 間違っちゃいないけど。


「えーと、鑑定スキルっていうのは、そのものの名称がなんであるかとか他人の名前とかスキルとかステータスとか! それが分かるのが鑑定スキルなんです!」

「つまり、今の俺は水であることを水と認識して、飲めるか飲めないか安全を鑑定したってこと?」

 興奮する降方からオレに顔を向けて、オレは「そうなんじゃね」と軽く返す。


「とりあえず入っていいってことだよな!?」

 晴品が喜びながら靴を脱いでスラックスを折ると、ぱしゃぱしゃと入っていく。続いてマツリが靴を脱いで慎重に入ってく。

「つ、つめたーい! でも、気持ちいいー! 足がスッキリするー!」

 マツリの言葉に女子は全員靴を脱いで川に入ってく。

 オレ以外は全員入り、その涼しさに声を上げていた。


「鈴貴も来なよー!」

 一葉が呼ぶが、オレは首を振って、

「周り見張っとくわ」と答えた。


 無気力なオレは川に入ってキャキャてするほどの心がない。

 みんなを見ながら平和に見えるのに、ここは異世界なのだ。

 少しばかりしたところで、みんな満足したのか、ざぶざぶとこちらに来て岩の上に座る。


「そういや鑑定スキル? なるものはレンしかないの?」

 マツリの言葉は、やはり降方に向かっての言葉だ。降方は少しだけ考えて、

「じゃあ、あっちの森に向かってなんか見えろー見えろーとかやって、見えた人が鑑定スキル持ちってことかな」


 オレを含む全員が、むむと見つめるが、

「ぱーっ! 見えん!」

「見えませんね」

 安堂とさはらが、ふうと力を抜いたところでレンが、

「セグの木、ウツゴの実」

 とレンが呪文のように唱えた。

 晴品が視線の先に行くとセグの木は分からなかったがウツゴの実らしき、いちごみたいな果実を持ってくる。


「どう?」

「食用って出てる」

 レンも疲れたのか、はぁと目を瞑り、かぶりを振る。

 とりあえず、食べものゲットしたみたいだ。

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