第43話『命の価値とシリアスの覚悟』
モルデールを襲撃したレオ率いるヴァルガーデン軍を撃退した景男たちであったが、敵も味方も相当な被害者が出た。
アイアンウルフ峠に置いて『赤狼騎士団』、モルデールの町において『幻影騎士団』と相対した『
景男とアムは、傷つき命を落とした者たちをハルデン屋敷に集めた。
ヴァルガーデンの総大将レオを主犯として両手を後ろ手で縄で縛りあげられている。軍団長のレオン・レッドウルフとセリーヌ・ブルースカイ、アレン・ホワイトホークは縄こそかけられてはいないが、得意の腰の剣と弓を取りあげられている。今度の戦では、レオの
ハルデン屋敷に、敵味方問わずこの度の戦に関わった主たる者が集まった。モルデールからは領主のアムと景男、ようやく起き上がってきた
モルデールが勝利を収めたと言っても、この
戦勝国モルデールの領主アムは、
アムは、テーブルに肘をつき、両手を祈るように組んで
家宰のアリステロスが口火を切る。
「いくら私でも、100人を越える人間を全員復活させることは
アムが尋ねた。
「アリステロス、100人の人間とシリアス様を天秤にかけるとはどういうことなの?」
アリステロスがヴァルダーの顔を見て言いにくそうに、「つまり、100人の命を救うか、それとも、シリアス様お一人を生かして、他の100人を
ヴァルダーが、当然のことのように、「戦で死んだ100人は代わりが利くが、モルデールの領主で、ヴァルガーデンの王子のシリアス様の命を救うことの方が当然だ」と言い放つ。
レオンが、机を叩く。
「ヴァルダー様が申すことはもっともでございますが、シリアス様お一人の命を救うために、我が『赤狼騎士団』を含めた人間100人の命を
「何を! シリアス様は王子なのだぞ‼ その命の価値が下々の者と同じ命の価値だと申すのか!」
「シリアス様の命は確かに下々の者と比べれば代えがたき
レオンは、主であるシリアス王子の命より、下々の多くの命を救うよう進言し一歩も引かない自分を自分で信じられないといった表情で
隣のセリーヌが、レオンに
レオンとセリーヌが同意見なのだ。同列の軍団長のアレンが反対する訳がない。
「
黙って、話を聞いていた王妃マリーナは顔が
アムは難しい判断を迫られた。味方したヴァルダーを指示すればシリアス一人の命を助け、レオンたちを再び敵に回すことになる。逆に、レオンを指示すればモルデールのために味方し犠牲をはらったヴァルダーたち『幻影騎士団』を裏切ることになる。次に乗せる重りをどちらに乗せるかで、ここに集まる人間の立場を決定してしまう。
アムは頭を抱えた。
アリステロスが厳しい視線で、「アム様、早く決断せねば、私の魔法で生き返らせるのも死後3時間まで、『赤狼騎士団』の団員を生き返らすならば、判断を急がねばなりますまい」とアムの決断を急かす。
アムは、モルデールの領主といってもまだ20歳の新人領主だ。両親がダークス卿の
「アムちゃん、その判断はオレがしていい?」
現実世界では、自分の人生もなかば
景男の心の中で、アムの姿がステージに立つ未来の表の輝きと、
だから、幸運にもマンホールに
アムは、
「ポジラー様、何か
景男は、首を横に振る。
「そんな都合の良い案はないよ。でもわかることは1つだけある。シリアスさんの命は確かに大切だけど、『赤狼騎士団』や他の多くの人、ホグゴブリンだって同じ1つの命だってことには変わりないよ」
「では、ポジラー様は……」
景男は、アムの目を見て頷いた。
「オレは、100人を越える人たちを救った方がイイと思う!」
ヴァルダーが、机を叩き壊さんぐらいにぶ厚いテーブルを叩いて立ち上がった。
「馬鹿を申すな。モルデールに味方したシリアス様を救わず、どうして敵やゴブリンを救うのだ。納得いかん!」
マリーナは、アムに代わって下した景男の決断に
「ヴァルダーよせ……」
そこに、隣の部屋から、レオに背中を刺されたシリアスが
「若様!」
ヴァルダーが、倒れそうなシリアスに駆け寄り、脇に肩を入れ身体を支えた。
「シリアス様、御無事で」
今にも泣き出しそうなマリーナが、ヴァルガーデンの王妃として、主犯のレオの母として、愛しいシリアスの
シリアスは、しっかりと自分の身を案じるマリーナに目を合わせて言った。
「私は、まだ、生きている。このまま、ここで死ぬようならそれまでの
ヴァルダーが今にも泣きだしそうな声で、「しかし、シリアス様は
シリアスは、まるでヴァルダーを実の父親にでも話しかけるように、「オレの
景男は、シリアスの
「シリアスさん、それでいいんですね?」
シリアスは、静かに頷いた。
つづく
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