第41話『戦乱のモルデール、ポジラーの帰還と逆転の始まり』

 モルデールの町の片隅かたすみで、レオとシリアスの代理決闘が、二人の傅役もりやく白鷹しらたか騎士団』騎士団長アレン・ホワイトホークと、『幻影げんえい騎士団』騎士団長ガーロン・ヴァルダーの間で始まった。


 二人の剣は、背中に背負った大剣たいけんだ。


 師・ヴァルダーは「がはは」と豪快に楽しそうに笑って剣を抜いた。


 弟子・アランは、「絶対に負けられない」と言った表情で、真っすぐヴァルダーに剣を構えた。


「参るぞ!」


 ヴァルダーの掛け声で二人は刃を交えた。二人の剣はるより、その重さで叩き殺すのが使い方だ。しかし、二人とも重量のある大剣を小枝の如く振り回す。


 ガチンッ!


 と刃を合わせて力比ちかららべだ。


 ヴァルダーは、最前線の騎士団長として戦う8歳ほど若いアレンに力で押し込まれる。だが、剣を腹に返してギギギッ! と滑らせて飛び退すさりながら、剣でアランの足元をぎ払うように、低空ていくう剣技けんぎを見せる。


 ガチンッ!


 アレンはそれより早く、地面に自己おのれの剣を突き立てて、ヴァルダーの返し技を受け止める。


「ほほう、腕を上げたなアレン」


「ヴァルダー様も、『黄金おうごん騎士団』で私が仕えていた頃から、その膂力りょりょくは一向におとろえを見せませぬな」


 互いに、戦いを楽しむかのように笑っている。





 二人を戦わせたレオは、それよりもホグゴブリンの子供に向かって行き、剣を振り下ろした。


 無邪気むじゃきなホグゴブリンの子供はえなく、レオに斬られた。


 ギラり!


 モルデールの町に移り住んだホグゴブリンたちの目が赤く光った。あちらでも、こちらでも眉間みけんしわを寄せ目を赤く光らせ爪が伸び狂暴化し近くの壺を割った。


 町の住人は、シリアスがすでに皆、タンクホルム山へ逃している。町に残っているのは『幻影騎士団』と移り住んだホブゴブリンたちだ。


 ボーン! ボーン!


 ホブゴブリンの軍太鼓ぐんたいこがタンクホルムの町に鳴り響いた。





 アイアンウルフ峠から、モルデールに向かって森を進む、景男とアム、『モルデール騎士団』団長のマックスとサンチョ、捕虜ほりょの形ではあるが何の拘束こうそくもされず景男に従う『赤狼騎士団』のレオン・レッドウルフと、傷ついたレオンの兵を荷車に乗せて運び来る『青空騎士団』のセリーナ・ブルースカイが、山に木霊こだまするホブゴブリンの軍太鼓に不穏ふおんな物を感じ取る。


 レオンとセリーナが聞き慣れない軍太鼓の音に、「この軍太鼓の音は何の合図ですか?」と不安を口にする。


 マックスが、「これは、ホブゴブリンが狂暴化した軍太鼓です。先を急がねばモルデールの町は大変なことになります」と目を見張る。


 アムは、不安で景男の腕に巻き付き上目使いに顔を見る。景男の腕にはアムの胸が当たる。


 景男は「でへへ」と鼻の下を伸ばす。


 それを見たサンチョが景男に近づいて、背中のカバンから手錠てじょうを取り出して、ガチャリ! いきなり、景男と自分の手に手錠をかけた。


「ポジラー様、ヴァルガーデン軍に攻められているモルデールの町に急がねばなんねぇ、それに、今のホグゴブリンの軍太鼓の音はただ事じゃなんねぇ。今は、アム様とイチャついてる場合じゃなんねぇ~べ」


 と、景男をアムから引きはなさんばかりに、アムから景男の腕を引き寄せる。


 アムは、負けじと引っ張り返す。アムもサンチョも一歩も引く力を弱めない。景男は、右に言ったり左に言ったり、風にあおられるカカシのようだ。


 景男は、たまらず、「アムちゃん、ちょっと腕を引っ張るのをやめてくれる?」と言った。


 アムは、ふくれて、「ポジラー様は、私より男のサンチョの方が好きなのですね!」とビリッと電流が流れる。


 サンチョが、当然と言ったように、「そりゃ、癇癪かんしゃくもちのアム様より、オラの方がおとなしくてポジラー様も付き合いやすいだ」と悪気わるぎなくアムの感情を逆立さかだてするようなことを言う。


「ちょっと、待ってサンチョさんにアムちゃん」


 ビリッ! ビリビリッ!


 すでに遅かった。アムは感情の高ぶりで景男を丸焼きにした。太っちょサンチョは体の脂肪しぼうに守られているのかアムの電流もへっちゃらだ。


 景男は、黒焦くろこげたカカシのように、アムの腕と、サンチョの手錠の間で気絶きぜつした。




 一方、モルデールの町は大混乱だ。『幻影騎士団』と「白鷹騎士団』がぶつかる間に、敵味方てきみかた見境みさかいなくホグゴブリンの群れが人間をおそい三つどもえの戦いの様相ようそうだ。


 ヴァルダーとアランの師弟対決を中心に、『幻影げんえい騎士団』と『白鷹しらたか騎士団』のが刃をぶつける。そこに、見境なく狂暴化したホグゴブリンが攻撃こうげきする。




 おだやかなモルデールの町を舞台に、混乱こんらんきわめている。


 町の入り口に戻ってきたアムは自分の目を疑った。土と木造の家屋に火がかけられ燃えあがっている。黒煙くろけむりの中、戦う男たちのが平和なモルデールを染めた。


「私の愛するモルデールが燃えている……」


 がっくりと、肩を落とすアム。


 景男は落胆らくたんするアムとデビューしたての地下アイドルで苦労する涼宮未来の姿が重なった。


「アムちゃん、オレが付いてる。何とかしよう」


 景男は、何とかする根拠こんきょも自信もないけれど、未来に重なるアムは放っておけない。根性出して、モルデールの町の混乱を何とかしようと一歩踏み出した。


(前回、ホグゴブリンが狂暴化したのは、仲間が殺された時だ。ということは、ヴァルガーデンの誰かが、ホブゴブリンを殺したに違いない!)


 そう当て推量すいりょうした景男は、ぐるりと戦局せんきょくを一望した。


 レオが、ホグゴブリンの子供の死体を踏みつけて、『白鷹騎士団』と『幻影騎士団』、本来、ヴァルガーデンの同志が戦うのを他人事のように楽しんでいる。


 景男は、レオに向かって一直線に歩き出そうとした。


 ビュイン!


 サンチョに繋がった手錠で進めない。


「ポジラー様、あいつがホブゴブリンを怒らせた悪者だな」


「うん、きっとあいつだ」


「ポジラー様、行ってどうするだ?」


「決まってる。こぶし解決かいけつする!」


「うんだな。弱い者イジメするようなヤツは絶対に許せないだな」


 サンチョは嬉しそうに微笑むと、景男を担いで、一直線にレオの元に向かった。



 つづく


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