第22話『血の誓い、ダークスの復讐』

 カリスタンは、ガイルズのきさきと子供を見つけると、いきなり切りつけ皆殺みなごろしにした。


 勇気を振り絞って駆けつけたダークスだが、時すでに遅し、ガイルズの妻子さいし事切こときれていた。


 カリスタンは、ダークスに切れ長の一重を面白ことを思いついたように残忍ざんにんな目を向けて言った。


「そうだ、お前の新妻にいつまサハラはどこだ?」


 ダークスは、目を見開いて、兄に問うた。


「兄上にサハラは関係ありますまい」


 カリスタンは、「フッ!」と口角こうかくをいやらしく上げて笑った。


「ダークス、これからお前の王は、俺だ。その忠誠ちゅうせいあかしとして、サハラと一晩、夜伽よとぎをするぞ!」


「兄上! お待ちを‼」


 チャリン!


 カリスタンは、剣をダークスの喉元に突き立て、冷たく言った。


「弱き者は、強き者に奪われるのみ! 文句があるなら俺と戦え! わっはっは~!」


 と、カリスタンはサハラの部屋のとびらを閉めた。


 サハラの部屋からは、女たちの悲鳴ひめいが上がるがダークスは、長兄ガイルズの亡骸なきがらに涙を落とし肩を震わせるのみ。泣きながらダークスは、ゆっくりと兄の斧を掴んで叫んだ。


「おのれ、カリスタン!」


 ダークスは、サハラにおおいかぶさるカリスタンの背中に、ガイルズの斧を振り下ろした。


 紅い鮮血せんけつが、ダークスの顔に飛び散った。


 ヴァルダーは、焚火たきび小枝こえだをくべながら、「兄弟で互いに殺し合い、大陸で最大の勢力を誇ったヴァルガーデンは一時的に衰退すいたいし、モルデールと、バレタニアは独立し、現在の領国関係となりました」と、言い終えてシリアスの目を見た。


 シリアスは、胸が詰まる思いでヴァルダーの話を聞き終えるとポツリと呟いた。


「つまり、俺は、カリスタンの落とし子なのだな」


 ヴァルダーは、焚火に小枝をくべながら、ゆっくりと首を横に振る。


「その答えは、ワシにはわかりません。答えはダークスきょうの胸の中にあります。ただ、一つ言えることは、ダークス卿はサハラ様を心底愛されていた……」


 シリアスは、答えにきばいて、「愛した女の祖国そこくをなぜ滅ぼす!」とヴァルダーの目をにらみつける。


 ヴァルダーは、睨み返して、「ダークス卿を止められるのは、強き者のみ! アム様をどうされます‼ 奪うか、守るか、二つに一つ、ご判断を!」と熱い眼差しでシリアスを見つめる。


 シリアスは、くちびるんで言った。


「私は、母のような思いを、自己おのれの妻にはさせたくない。私は、モルデール、いや、アムに味方するぞ!」


「それでは!」


 シリアスは、近くの団員に命じた。


「教会にいるモルデール騎士団長のマックスに伝えよ。ここに、ヴァルガーデンより兵が攻めてくる。早急さっきゅうにアムに伝え、防備ぼうびを整えよとな!」



 ハルデン屋敷の広間に、マックスが駆け込んでくる。


 主の席に座るアムと、後ろに控えるアリステロスの元へ、息せき切って戻って来たマックスに、アムが不満顔ふまんがおたずねる。


「ポジラー様は、一緒いっしょじゃないじゃないの!」


 マックスは、首を振って、「それどころじゃございません。シリアス様からの言伝ことづてで、モルデールへヴァルガーデンの兵が差し向けられたようにございます!」


 アリステロスは驚いて、「アム様が勝手にシリアス様との婚姻こんいんの話をくつがえめされたからか!」


 マックスは、息を整え、「そうではございません。シリアス様は、こちらの味方にございます」


 アリステロスは、目を見開いて、「ならば、アム様とシリアス様の婚姻は始めから、我らを油断ゆだんさせ、侵略する算段さんだんだったか!」


 アリステロスは、アムにひざをついて頭を下げる。


「アム様、私が甘うございました。アム様と、シリアス様が婚姻なされば、モルデールの平和は保たれると、浅はかな算段をいたしました。これは、私の過ち、なんとびれば……」


 アムは、立ち上がって、指揮を飛ばすように手を伸ばして言った。


「おもしろい、ダークス卿。初めから信用は出来ない男だと思っていたけど、やっぱり、本性を現したわね。でも、シリアスが私に味方するとは意外だわ。でも、今はヴァルガーデンの兵を、父上と母上を事故に見せかけ亡き者にしたタンクホルムの峠の防備を固めるのが先ね。マックスは、モルデール騎士団を率いて、すぐに、峠へ向かって!」


 アリステロスは、名誉めいよ挽回ばんかいといった表情で進み出る。


「アム様、私はどうすれば?」


「あなたはタンクホルムの守り人でしょう。峠の戦いにあなたの魔法は欠かせない。すぐ、あなたも急行して!」


 アリステロスは、黙って頷いた。


 アムは、悔しそうな顔をして、「ここにポジラー様がいれば、ホグゴブリンの協力も得られただろうに……、まったく、あの方はアリステロスが言ったように逃げ足が速い!」




 つづく










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