第10話(④ー3)『電撃のアムと、大魔法使アリステロス』

「ポジラー様、あーんして♡」


 これ以上は、もう無理だ。前の肉を飲み込む前に、次の肉を次から次に食べさせられたのでは、水におぼれたように、じきに、のどに肉がまって窒息死ちっそくしさせられる。しかし、アムはなぞ電流娘でんりゅうむすめだ。普通にことわっても、素直すなおおうじる娘じゃない。とにかく、思い込みが強い。下手に断れば、次は、骨折ぐらいじゃすまないかもしれない。景男は、アムの強い愛情あいじょうの圧に心の中で恐怖きょうふをおぼえた。


「ポジラー様、はい、あーんして!」


 また、アムの目がすわっている。




 コンコン!


 その時、ハルデン家の大扉を誰かがノックした。扉が開くと、家宰かさいのアリステロスに、先導せんどうされ、シリアスとその傅役もりやくヴァルダーが入って来た。


 アリステロスは、景男にベッタリのアムを一目見ると、まゆをしかめた。


「アム様、昼間の婚礼こんれいのときにも申した通り、ポジラー様との婚儀こんぎは、一旦いったん棚上たなあげ、正式に決まったわけではございません」


 アリステロスにそうくぎを刺されたアムは、ふくれっつらして、「アリステロス、ヴァルガーデンに帰国したはずのシリアス様を、なぜ、連れてきた!」ととがめる。


 アリステロスは、ハルデン家の政治すべてをあずかる家宰かさいである。さも当然とうぜんと言った表情で、言ってのけた。


(アリステロスさんは、アムちゃんの電流怖くないのかな……)


 と景男は、心中でアリステロスの体を気づかう。


「アム様、いつまで聞きわけのない子供のようなことを、おっしゃるのです。父君ちちぎみのグレゴール様、母君ははぎみのセシリア様は、もう、られぬのですぞ! これからハルデン家のすえ姫様ひめさまお一人でどう切りりしてまいるのです。大人おとなになりなされ!」


 とアリステロスがアムの電流をおそれもせず、苦言くげんていす。


 アムは、アリステロスの言葉に、ワナワナ、ワナワナと、腕をピンと伸ばしてプンスカ床をみしめる。


「アリステロス、わかっておる。だから、私はこのポジラー様を……」


 と、アムが言いかけたのをさえぎるように、アリステロスが言葉をつ。


「姫様、なりませぬ! 我らハルデン家は独立した小領主しょうりょうしゅとはいえ、このたびの縁談えんだん大国たいこくヴァルガーデンのダークス・ストロンガーきょうもすでに了承済りょうしょうすみ、いわばシリアス様との結婚は、国と国との同盟結婚。いまさら、履替くつがえられませぬ」


 アムは、ダッダっ子のように、景男の腕にすがりついて、「イヤじゃ、イヤじゃ! 私はポジラー様と結婚するのじゃ!」と、涙をにじませた。


 ビリッ!


 わずかだがアムの触れる景男の腕に電流が走る。


 景男は、アムを、どーどーどー、とギプスとアームホルダーで固定された腕を小刻こきざみに動かし、落ち着くようにうながしなだめる。


 景男は、微量びりょうの電流が、顔面がんめんまで流れているのか、引きつった顔で、アリステロスにアムの機嫌きげんさかなでないように、冷静にことをすすめるように説得をこころみる。


「あの~、アリステロスさん、私は部外者ぶがいしゃですけど、もう少し、アムちゃんの話を……」


部外者ぶがいしゃ発言はつげんひかえていただこう」


 アリステロスは、景男をたしなめた。


 ビリビリッ!


 景男の体にアムの電流が腕から伝わり、頭の先から、爪先つまさきまでけ抜ける。


 アワワワワ~。


 カケルは、アムの電流で、もう少しで気絶きぜつしそうである。


「アリーズゥーデローズざーん、言葉ごとばにばーをづげでー!」


 アリステロスはピシャリと、「黙れ! よそもの‼」と景男の発言を一刀両断いっとうりょうだんした。


 アムは、アリステロスに目をいて怒りがビリビリひびきあがってくる。


「ヒャー!」両腕をギプスとアームホルダーで固定された景男は、腕に密着みっちゃくしたアムをはねね飛ばすわけにもいかず、ビリビリ感電かんでんして白目しろめいている。


「アリステロス、私のおっとポジラー様への無礼ぶれい発言はつげんゆるさぬぞ!」


 アムは、電圧でんあつMAX、体の節々ふしぶしから稲妻いなずまが走っている。



 アリステロスとアムのやり取りを、背後にひかえてたかみの見物けんぶつを決め込む、シリアスに騎士団長きしだんちょうヴァルダーが、おもしろい物でも見るようにささやく。


「若様の嫁御よめご元気げんきがよろしいのう。これは、お二方ふたかたの間に生まれるお子が楽しみですわい」


 と、のんきにシリアスとアムの将来しょうらい展望てんぼうべる。


 シリアスは、アムの本性ほんしょうを目の当たりにして、すっかり目元めもとが引きつっている。


「おい、ヴァルダー、知っておったのか? 花嫁はなよめ鬼嫁おによめだと」


 ヴァルダーは、しっかりシリアスの目を見て答えた。


「もちろんに、ございます。あの元気の良さ、将来しょうらいのヴァルガーデンの跡継あとつぎになられるシリアス様の奥方には、あれぐらい元気であらせられなければなりませぬな、わっはっは~」


つづく 



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