第3話(①ー3)『伝説の男ポジラー』

 シリアスの去った教会は、景男を伝説の英雄ポジラーとして、疑わないアムが腕を取りべったり張りついている。


 それを見た、家宰のアリステロスが苦言をていした。


「アム様、アクシデントとは言え、シリアス様がおっしゃる通り、どこの馬の骨ともわからぬポジラー様らしき方を、婿むこにするのは問題なのでは?」


 アムは、唇を奪われたことで、すでに心を決めている。さも、当然とうぜんと言った口調くちょうでアリステロスに言い切った。


「私は、ストロンガー家から長きに渡り独立を保ったハルデン家の一人娘です。いくら父と母を事故じこうしなったとはいえ、そのことで天涯てんがい孤独こどくとなった私の弱味につけこみ、大国ストロンガー家の王位おうい継承権けいしょうけんのない妾腹めかけばらのシリアスなぞのよめになどなりたくない。どうせなら、私は、このポジラー様のような勇敢ゆうかんな男を婿むこえらぶ」


 と、景男の腕に胸を押してる。


 景男は、現実げんじつ世界せかいでは、38歳の独身どくしん中年ちゅうねん、二ートで定職ていしょくもない。生活力が無いから、とっくに婚期こんきをむかえても、アイドルの涼宮未来に人生をささげている。そんな負け男が、ひょんなことから異世界とはいえ、うら若き未来そっくりの美少女から求婚きゅうこんされているのだ。


 知らず知らずのウチに鼻の下が伸びている。


 それに気がついたアムは、いきなり景男のだらしないほほつらをひっぱたいた。


「ポジラー様、そのだらしない顔はなんですか!」


 と、コロンと山の天気てんきが変わるような態度たいどをみせる。


 景男が、アムの変わり身の早さに戸惑とまどいの表情を見せていると、見かねたアリステロスが近づいてきて、景男の頭の先から足の先までマジマジと見て呟いた。


「うむ、確かに、ハルデン家に伝わる初代ポジラー様の肖像画によく似ておられる。少し、うかがいたいが、そなたどこの者だ?」


 そういわれても、景男は、通いなれた道の角を曲がると、通り道のマンホールに落っこちたらここに来てしまったのだ、理由など知るよしもない。いて言うなら、現実世界の自分の人生は行き止まりで、将来に明るい展望てんぼうもなければ、希望きぼうもない。そのまま過ごせば、一生いっしょう独身どくしんのまま人生を終えてしまう。むしろ、未来そっくりな美少女と結婚するこの異世界にこれてラッキーだ。


「う~ん、俺は、景男。しがない男です。アムさんでしたっけ、先程から、俺のことを伝説の英雄ポジラーとおっしゃいますが、そのポジラーはどんな人物なのですか?」


 と、素朴そぼく疑問ぎもんぶつける。


 アリステロスが、手に持ったつえ一振ひとふりすると、ホログラムのような映像えいぞううつし出された。そこは、ハルデン家の城ハルデン屋敷の広間ひろまの壁にかる初代しょだい領主ポジラー。景男にそっくりな男だった。


 アリステロスが杖を動かし映し出したホログラムを移動すると、ポジラーの孫にあたるアムの父グレゴールの肖像画にもその面影が垣間見える。


 景男との一番の違いは、小領主とはいえ30人の兵と、1000人ほどの領民りょうみんらしと命、幸せを背負せお責任感せきにんかんが、二人の眉間みけんには刻まれているが、景男にはない。


 アリステロスが、景男を頭の先から足の先まで見定めて言った。


「先ほど、シリアス様との一騎打いっきうちで剣技けんぎは見せていただきましたが、我が領内の一の剣士で騎士団長のマックスと立ち会ってどれくらい実戦じっせんで戦えるか後日、見せていただきたい。アム様は、あのような天真てんしん爛漫らんまんな性格です。先程さきほどは、ポジラー様を婿にとのおおせせでしたが、鼻の下は伸ばさぬように! ここは、慎重に、我らがハルデン家の舵取かじとりをいたさねばなりますまい。よろしいかな?」


 とアリステロスが顎髭あごひげさすりながら言った。


「もう一つ、くわしくポジラー様の素性すじょうをお聞きしたいゆえ、とりあえずは、このたびのアム様との婚儀こんぎ一旦いったん中止ちゅうしといたし、このあと、ハルデン屋敷にてシリアス様をまじえて食事会しょくじかいでももよおしましょう」


 とアリステロスに言われた。すると、景男にみつけられていたシリアスが、立ち上がって景男をにらみつけ、いきなり顔をなぐり飛ばした。




 つづく







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