第2話(①ー2)『一対一の決闘、景男の覚醒』

「景男だか、ポジラーだか知らぬが、お前も男なら剣をれ、アムをどちらを妻にするか男のプライドをけた一対一の決闘けっとうだ!」


 と、景男の足元に剣をすべらせてよこした。


 足元に、剣のがある。景男は、とりあえずつかみとり、刃先はさきたしかめた。刀はよく手入れされ、切れ味もよさそうだ。しかし、景男は、剣など生れてから一度もにぎったことなどない。あるのはゲームのコントローラーで、戦士せんしを使って肉弾戦にくだんせんをするのがせきの山だ。


 しかし、剣を握った景男は、重い剣が、どういうわけか小枝を振るように軽く振れる。人生においてさわったこともない剣がなぜだか簡単かんたんにあつかえるのだ。


 重たい剣を小枝のようにあつかう景男を見たシリアスは、いきなり、抜刀しりかかった。シュっと景男のほほをかすめた刃先はさきが、寝ぐせを切る。


「マジで、切れるやん!」


 景男は、引きった声で驚きの声を上げた。


 シリアスは、さも当たり前のように言った。


「当たり前だ、私は、こう見えても我がヴァルガーデンNo1の剣士なのだ。どこの馬の骨かもわからぬ怪しい男に負けるわけがない。さあ、このつるぎさびにしてくれるそこに名折なおれ!」


 そう言って、シリアスは、景男にちかかってくる。剣を握るのも初めての景男ではあったが、なぜだか自然と身体が動いて、シリアスの剣筋けんすじたくみにかわし、いなして、すきあらば、打ち返す。


 意外いがいにも苦戦くせんを強いられるシリアスは、驚きがかくせない。護衛ごえいの騎士たちもシリアスが苦戦を強いられている光景など見たことがないのであろう。皆、二人の剣劇けんげきに注目して息を飲む。大国ヴァンガーデンには、シリアスに太刀打ちできる騎士などいないのだ。それが、突然、現れた馬の骨が、互角、それ以上の剣技を見せる。むしろ、押されている。


 カツン、カツンと、剣を交えるシリアスと景男であったが、シリアスの捨て身の一撃を、いともたやすく跳ね上げて、シリアスの刀をね飛ばした。


 シリアスの剣はクルクルと回って、教会の床にさった。


「そこまでにございます」


 今まで、アムの背後はいごひかえていた家宰かさいの、白髪と長い白髭の大魔法使いのアリステロスが、待ったをかけた。


 アリステロスは、床に尻もちをつくシリアスと、剣を手持ちぶたさにどうしたものかと戸惑とまどいを見せる景男に、ハルデン家の家宰らしく中立の立場で和解案わかいあん提案ていあんする。


「シリアス殿、ポジラー殿、ここは神聖なる教会、いろいろアクシデントが重なり、決闘けっとうになりましたが、ここはおたがいに、一度、剣をさやおさめて、一時いちじ休戦きゅせんといたしませぬか?」


 アリステロスの提案に、神父があわてて青い顔して言った。


「ここは、アリステロス様が言うとおり、お互い、言い分はあるかと思いますが、神々のいられる神聖しんせいな教会ですぞ。双方そうほうけんをおさめられよ!」


 景男は、自分の剣をすぐ横のベンチに置いて、床に刺さるシリアスの剣を引き抜いて、の方をシリアスに向けて渡した。


「はい、シリアスさんの剣です。どうぞ」


 シリアスは、決闘けっとうに負け、剣士けんしとしてのプライドまで、景男にみつぶされた気がした。すぐに奪い取ると「フンッ!」と護衛ごえいの騎士を引き連れててセリフを言った。


「ポジラー、今日のことは忘れぬ。そのことアム殿も、心しておかれますように」と言い捨てて帰っていた。


 アムは、よっぽど根暗ねくらな性格のシリアスが気に入らなかったのであろう。去り行くシリアス向かって、景男のうでに抱きついて身をかくしながらアッカンべーした。


 すると、途中で、シリアスが立ち止まり振り返って「ポジラーとやら、私は、絶対にこの屈辱を晴らす。アムを私の妻とする。必ず、戻ってくるぞ!」


 と、言い捨てて、騎士団を引き連れて引き上げて行った。



つづく

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