異世界で大逆転ポジラー

星川亮司

序章 

第1話(①ー1)『予期せぬ結婚式! 転生したら花嫁に求婚された男』

「ちょっと、待ったーーー!」


 ブチュー♡


 異世界のトンネルを抜けると、美少女とキスをした。


 追手内ついてない景男かげおが、マンホールを落ちた瞬間、目の前が真っ暗になり、次に気づいたときには、古びた木の香りがただよう異世界の教会に転生していた。ステンドグラスから差し込む光が、神秘的な七色の色彩を放っている。ここが、ナーロッパの教会だと言うことを感じさせる。




 神父が聖書をタキシードの新郎しんろうと、ウエディングドレスの新婦しんぷに差し出して、誓いの言葉を求めている。


「新郎、ストロンガー・シリアス、あなたは新婦アム・ハルデンを、すこやかなるときも、めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しきときも、愛し、うやまい、なぐさめ、助け、その命ある限り、真心まごころくすことをちかいますか?」


 シリアスは、綺麗きれいにクシを通した長い金髪きんぱつをなびかせて、冷たい切れ長の一重ひとえの視線で10歳以上は年齢としはなれた若いアムを見つめて言った。


 シリアスは息を深く吸い込み、一瞬のためらいもなく、「誓います」と力強く答えた。その声には、彼の覚悟と誇りが込められていた。


 神父は、アムに同じ誓いの言葉を求めた。


 アムはまだ18歳、シリアスとは20歳の年齢差だ。彼女は、不本意な結婚を迫られ、言葉が出ない。


「誓い……」


 と、アムが言いよどむと、


「ちょっと、待ったーーー!」


 と、シリアスの頭の上にワームホールが突然開き、景男が落ちてきた。


 ブッチュ!


 景男はシリアスの上に落っこち、その勢いでバランスを崩してしまった。次の瞬間、彼は跳ねのけようとしたシリアスによって、すっ転びアムの唇を奪った。




 そこにいる結婚式の参列者が、皆、手で口を押さえおどろきで静寂せいじゃくに包まれた。


 神父が、驚いた顔をしながら、景男に尋ねた。


「なんだきみは?」


 景男は、驚いて、自分の顔を指差して答えた。


「なんだ、君はって? 俺は追手内ついてない景男かげお。てか、ここどこだ?」


「ツイテナイ・カゲオ?」


 神父は、この世界には無い名前らしく、景男の名前をすぐには認識にんしきできないようだ。


 すると、アムが、景男の首に腕を回して抱き着いた。


「あなたは、我が家に伝わるご先祖さまのポジラー様でございましょう」


 景男は、「ポジラー」と呼ばれてもピンとこない。


 アムは、間違まちがいないと言った表情で、景男に言いふくめるようにつげた。


「あなたは、我がハルデン家に伝わる伝説の英雄ポジラー様に違いありません。だって、私が不本意な結婚式をすることを、ぶち壊しに現われて、シリアス様を押しのけて私の唇を奪った。私は、ポジラー様と結婚することを誓います。さあ、神父様、ポジラー様にも誓いの言葉を聞いて頂戴」


 景男は、運悪くマンホールに落ちたら、異世界に落っこちて、弾みでアムとキスをし、次の瞬間には結婚を女性の方から迫られている。

(なにがなんだかわからない)


 すると、景男に踏みつけられたシリアスが立ち上がって、景男を押しのけて、アムに迫る。


「景男だか、ポジラーだか知らんが、さっきのキスは無効むこうだ。この結婚は王族である私が、跡継あとつぎのいない小領主の入り婿むこになることだ。もう一度、結婚の誓いをやり直さねばならぬ」


 アムは、シリアスの顔面に顔を寄せ、「い~や! 私は、ファーストキスした殿方と結婚することに決めてたの! シリアス様、私とあなたの結婚は無し、私は、ポジラー様と結婚いたします!」


 と、言い切った。


 景男は、展開が早すぎて何がなんだかわからない。ただ、超ラッキーなのはわかる。


 シリアスは、神経質しんけいしつに、親指おやゆびつめんだ。次の瞬間しゅんかん王都おうとヴァルガーデンから連れてきた兵に命じた。


「お前たち、何をグズグズしておるのだ! 私とアムの結婚を妨害ぼうがいした曲者くせものをスグに引ぃらえよ!」


 シリウスの命令で、ヴァルガーデンのやりを持った騎士団きしだんが、景男を引っ捕らえにかかる。


 現代の景男は、38歳の中年男性だ。自分ではよくわからないが、ポジラーと呼ばれる体は身軽だ。ヒラリヒラリと捕らえに来る騎士を、一人、また一人と交わして、あべこべに体が自然に動いて、次々に、足を払ってひっくり返して行く。


 シリアスが引き連れた小隊の騎士団は、あっという間に景男、いや、ポジラーに皆、転がされた。


 残ったシリアスは面子丸潰れである。怒りのあまり、倒れる騎士から2本の剣をうばいとり、ポジラーに向き合った。



つづく


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