第32話『迫り来る脅威! ヴァルガーデンの赤・青・白の騎士団長から、モルデールを守れ!』

 ヒュールリー! ヒュールリーララ―!


 ヴァルガーデンから使いツバメが飛んできた。


 アイアンウルフ峠の関所の見張り台にいるガーロン・ヴァルダーの腕にツバメがとまった。


 ガーロンはツバメの足に巻きつけられた文を開くと、これは一大事いちだいじだという顔をして、詰め所に入っていった。


 詰め所には、景男ポジラーとサンチョ、シリアスが離れて座っている。ヴァルダーは、シリアスに近づいて、文を見せた。


「シリアス様、ヴァルガーデンより、赤・青・白の3騎士団がこちらへ向かって出陣してまいりました」


「3軍もモルデール制圧に派遣はけんするとは、父上も本気で落としに来ているのだな。……それよりも、ヴァルダー、この文字はナディアの文字。トリスタンはお前と戦う覚悟を決めたやも知れぬな」


 ヴァルダーは豪快ごうかいに笑って、「がっはっは~、トリスタンが向かってくるならワシは正々堂々戦うまで、武人にとって親子のきずなよりも、強いおとこと剣を交えることこそ最大の喜び。楽しみですわい」


 2人の会話に聞き耳を立てていた景男とサンチョが、スリスリとシリアスに近づいた。


「シリアスさん、つかぬことををおうかがいいたしますが、ヴァルガーデンよりまた軍隊が押し寄せて来るのですか?」


「そうだ、今度は、武術にうといブラックとは違い、ヴァルガーデンの精鋭せいえい騎士団が3隊来る!」


「3隊も!」


「おそらく、二刀流のレオン・レッドウルフ、弓術のセリーヌ・ブルースカイはここを目指して攻めてくるだろうが、盾術たてじゅつのアラン・ホワイトホークはどこから来るかつかめない。私は、モルデールのために戦う覚悟だが、ポジラー、お前はどうする?」


 景男は、言葉に詰まった。突然、異世界に飛ばされてから目まぐるしい展開で、アムを巡ってシリアスと争い、モルデールを守るためにヴァルガーデンの戦に巻き込まれた。景男は、この世界に来るまで、普通のニートだったのだ。戦う覚悟を迫られても、そんな物、有るくらいならそもそもニートにはなってはいない。まさに愚門ぐもんだ。


 しかし、景男は、この世界に来てから、ある種の“ツキ”がある。現実世界では、ファンとアイドルの関係だった涼宮未来そっくりのアムと、いきなりキスできた。貴族であるシリアスを押しのけて、半ば強引にアムの婿にされてからも不思議と上手くことが運ぶ。


(この異世界なら、オレは、引きこもりニートの負け組人生を、勝ち組人生でやり直せるかもしれないという淡い期待がある)


 景男は、にぎこぶしを振り上げて宣言せんげんした。


「よーし、異世界で人生大逆転だ。オレはこの世界では絶対に負けない……はず!」


 すると、サンチョが呆れたように、「ポジラー様、ここまではたまたま偶然良い方向に転がって上手く行っただけだ。そんなに調子に乗ると痛い目見るだ。それよりも、このことを早く兄ちゃんとアム様にも伝えなきゃなんねぇーだ」とサンチョは景男をかついで、見張り台へ出た。





 キュルルルル!


 タンクホルム山を飛ぶハヤブサが急降下して、サンチョの腕にとまった。


「ポジラー様、オラは字が書けねぇ~から、オラの言うとおり代わりに書いてけろ」


 と、ふところから、紙とエンピツを取り出し渡した。


 景男が、紙とエンピツを受け取ると、サンチョがエッヘンとのどを鳴らして語りだした。


拝啓はいけい お兄様にいさま、アム様、お久しぶりです……敬具けいぐ


 景男は、書く手を止めた。


「サンチョさん、この文は手紙じゃないんだから、バカ丁寧に『拝啓』やら『敬具』はいらないの!」


 すると、サンチョが景男の脳天に拳骨げんこつを食らわせた。


「オラはバカじゃねーだ。おっかああんちゃんも、オラはおっとりしてるだけでバカじゃねーっていつも言ってるだよ」


 ピヨピヨピッピ!


 景男の頭の上にクルクルヒヨコが回った。


ひらめいた! アイアンウルフ峠の防衛を手筈てはず通り整えたら、『幻影騎士団』がモルデール防衛に当たってもらい。『モルデール騎士団』がここに入る」


 ヴァルダーが、不審ふしんな目を景男に向けて、「どうして、脆弱な装備の『モルデール騎士団』に赤と青の2隊を相手にできよう。ワシがらねば、レッドウルフとブルースカイを打ち負かすことなどかなわぬぞ!」と自信満々に言う。


 景男は、ヴァルダーの言葉に「我が意を得たり!」と手を叩いて喝采かっさいを送る。


「そこ! そこが相手の盲点もうてんだよ。今回、アイアンウルフ峠の関所にはアムちゃんの電流で起動きどうする地雷じらい敷設ふせつする。当然、ここにはアムちゃんがいることになる。そうなると、モルデールの町は誰が守るのかとなると、本来なら家宰かさいのアリステロスさんが元気なら、こないだの大魔法や、マックスさんたち『モルデール騎士団』を率いて効率よく戦うことができる。しかし、今回は違う!」


 ヴァルダーは不満気ふまんげに、「何が違うのだ」と問い返した。


 景男は、「待ってました!」とばかりに指差して、アイアンウルフ峠は防衛準備が整っているから、案外、マックスさんたち『モルデール騎士団』でも防げるんじゃないかって思うの。それよりも、どこから攻めてくるかわからないホワイトホークさんの騎士団への対応は、同じヴァルガーデンのシリアスさんとヴァルダーさんが適任てきにんじゃないかって」


 すると、サンチョがすかさず口をはさむ。


「おい、ポジラー様。あんちゃんが率いる『モルデール騎士団』は強ぇーんだぞ。こないだは卑怯者ひきょうものブラックの矢で負傷ふしょうしちまって実力が発揮はっきできなかったけど、兄ちゃんが本気になりゃ、アリステロス様の出番はなかっただ」


 景男は、必死に兄をほこらしげ自慢じまんするサンチョに笑顔を向けて、「そうだね、サンチョさん。マックスさんは横から矢が飛んでこなければ、間違いなく勝っていた」と、首肯しゅこうする。



 シリアスが、景男に切れ長の一重を向けて、「ヴァルガーデンの裏をかいて、我らがモルデールの町に入るのはわかったが、相手が、堅実な戦い方を好むアラン・ホワイトホークだとすると、戦の定石じょうせきの町の焼き討ちをしてくるかもしれない。住民の避難ひなん計画けいかくも合わせて考えておいた方がよいかもしれぬ」と懸念けねんべる。


 景男は、サンチョに向って、「サンチョさん、今の計画を文に書くからスグに、モルデールのアムちゃんに当てて使いハヤブサを飛ばしてくれ」とだらしない男が、キリリと忠実まめやかに見えた。



 つづく





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