第31話「ダークスの野望と”王の槍”トリスタンの苦悩」
――ヴァルガーデン領内・ヴァルダー
ヴァルガーデン王宮の北面にガーロン・ヴァルダー、
町屋敷を中心に、北方にある砂漠のオアシス都市ホルサリムから来たラクダのキャラバン隊が赤や青のテント屋根を広げバザールを開いている。
バザールでは、水タバコを吹かせ、アラブコーヒーやを客に
テントの下では、
「ダークス卿は、一体何をお考えなのだ」
と、そこへ、黒髪の目鼻立ちがハッキリした堀の深いエキゾチックな顔立ちのトリスタンの母・ナディア・アルサミが、トレーにに2つの花の香りのするハイビスカスティーを持って出迎えた。
「トリスタン取り乱してどうしたの。なにか、王宮で何か問題でもありましたか」
ナディアは、テーブルにトレーを置くと、膝を折り、マントを拾い上げ
「母上、私は、王に
ナディアは、トリスタンの言葉に思わずハッと口元を隠した。
「ダークス卿は、
トリスタンは、眉を
ナディアは、トリスタンに冷静な目を向けて、「シリアス様は、今は亡きサハラ様の子。サハラ様を心の底から愛したダークス卿がそんなことを命じるはずがありません」とトリスタンをなじる。
「母上、ダークス卿は、しっかりと申しました。逆らえば……と……」
ナディアは、膝から崩れ落ちるように、テーブルに手を置き、「ダークス卿に限ってそんなはずはありません。サハラ様の
トリスタンは、冷静に、「そうでしょう。レオ様が生れるまでは……、その
ナディアは、首を静かに横に振る。
「いいえ、トリスタン。ダークス卿のサハラ様を想う気持ちはそんなものではありません。二人はこの戦乱の世の中で生まれた
「しかし、母上、私もそう信じたい。だが、今朝の御前会議で決まったことは、そうではなかった」
ナディアは、トリスタンの目をしっかりと見定める。
「トリスタン、ダークス卿は、自分の身に起こった兄弟で王座を争うような不幸を二度と繰り返したくはないのです」
トリスタンは、目を伏せて、「母上、だからシリアス様をモルデールのハルデン家の
ナディアは、静かに深く頷く。
「だからこそ、ブラック様を打ち破ったモルデールとシリアス様を放ってはおけない」
トリスタンは、唇を噛んで顔を上げ宙を睨んだ。
ナディアは、トリスタンを問いただすように言った。
「あなたは、王と父どちらを選ぶのです!」
トリスタンは、壁にかかった幼き頃に描いかれた”王の槍”時代のガーロンに頭を
「父上は、私と違ってシリアス様への
「……」
「それは、誇り高い父に
「ならば、お父様と刃を交える
トリスタンは静かに頷いた。
「しかし、私にとってガーロンは手本であり、師であり、父親です……」
ナディアは、トリスタンの心中を
トリスタンは、ハイビスカスティーのカップを
「私は、ダークス卿に忠誠を誓う”王の槍”。裏切ることはできません」
そう言って、マントを肩に付け直して、二階の自分の部屋へ去って行った。
ナディアは、紙とペンで何やら書き連ねると、二階へ上がってベランダへ出た。
ヒュールリー! ヒュルリーララ―!
つづく
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