第三部①大国ヴァルガーデンとの対立

第30話『侵略の序曲ダークスの野望』

 ヴァルガーデン王宮を使いツバメが飛来する。


 ヴァルガーデン王宮は、かつては異教徒いきょうとの城の跡地あとち征服せいふく象徴しょうちょうとして建てられた白亜はくあの城である。まちのほぼ中央にあり、正面には東の港町バレタニアから西のモルデールまで走るパラシオ街道が走る。街道を少し下ると大河マルサネス川が流れ天然の堀となっている。


 王宮の西には、大陸のありとあらゆる植物が植えられ管理されていると言われる大庭園だいていえんが広がり、東には王が直接ちょくせつ民衆みんしゅうを集めて御触おふれを出す広場と王のための演奏、オペラ、演劇をする王立劇場がある。南には衛兵を集める広場があり、同じく国教の大聖堂がある。北面には堀代わりの広い池に見立てた噴水がある。


 ヴァルガーデン王宮は、要塞であり、王と民衆を統治するための居城である。




 広い王座の間に、玉座で膝を組んで、どっしりと深く腰掛けて座る白髪のダークス卿が、3隊の軍団長を集めている。


 ダークス卿は、目の下に落ちくぼんだ黒いくまを作り、猜疑心さいぎしんが強いのか、眠りが浅い。まだ、60歳を少し過ぎて老いるには早いが、老成している見えるが、肉体は肌にはまだハリがあり若さを保っている。


 ダークスから一段下がったところに、仮の玉座に皇太子こうたいしの若い17歳の青年のレオが座る。


 二人の玉座の左前には、実直じっちょくそうな王の槍・近衛団長このえだんちょうのトリスタン・ヴァルダーが控える。


 ひざまずく、三人の騎士団長は、赤、青、白のプレートアーマーに身を包み同じ色のマントを着込んでいる。




 トリスタンは、部下から使いツバメの文をほどいて目を通し眉を寄せた。


「ダークス様、ブラックがモルデール侵攻をしくじり捕虜となりました」


 と、報告する。


 ダークスは、手に持ったワインを一口飲むと、脇のたくに置いた。


「ふん、まあ、ブラックには期待しておらなんだ。あやつはどうせ汚れ役をばかりしてのしあがった外道げどう。失っても痛くもかゆくもない。アルハイル、次の策を申し出よ」


 と、ダークスは左を見た。


 カリファ・アルハイルはダークスより老成している。年の頃は70歳を超えている。浅黒い肌は、色白の多いヴァルガーデンの生れではないのを物語る。身を包むローブは、モルデールのアリステロスに通じる魔法使いの物があるが、真っ黒なローブを着込んでいる。口元はブルドックのように頬が垂れ下がり、口元はへの字にゆがんでいる。


つつしんで、王に申し上げる。想像するに、モルデールは恐らく、タンクホルムの守り人アリステロスが大魔法でも使い、ブラックの軍を退けたものと思われます。大魔法を使えばアリステロスと言えど、数日は動けますまい。ここは、奴が回復するのを待たず次なる兵を繰り出して、たたみかけるのが上策じょうさくかと」


 ダークスは、玉座の肘掛ひじかけに置いた指先を小刻こきざみに動かし、アルハイルに聞こえるか聞こえないかの小さな声でなにか命じた。


 アルハイルは、頷き3人の騎士団長の名を順に呼んだ。


「レオン!」


 赤髪のレオン・レッドウルフ『赤狼せきろう騎士団』騎士団長が立ち上がった。40代に手が届きそうな初老の中肉中背の騎士が立ち上がった。


「そなたは、先鋒せんぽうとして、タンクホルム山のアイアンウルフ峠を落とせ! 次にセリーヌ!」


 青髪のセリーヌ・ブルースカイ『青空せいくう騎士団』の女騎士団長が立ち上がる。トリスタンと年齢が近い若く華奢きゃしゃな騎士団長だ。


「そなたは、得意の弓隊ゆみたいを率いて、レオンを後方支援こうほうしえんいたせ! 最後に、アラン!」


 白髪のアラン・ホワイトホーク『白鷹しらたか騎士団』3人の中では年長の大柄な騎士団長が立ち上がった。


「そなたは、本来なら、王都おうとを守る守備隊長ながら、この度は、アイアンウルフ峠を通らず、船でマルサネス川を上り秘密裏に川沿いに進軍せよ!」


 アルハイルは3人の騎士団長に命令を下すと、ダークス卿を振り返った。


「ダークス卿、3人の騎士団長に直接の命令を」


 と、促した。


 すると、ダークスは、アルハイルから視線を外して、皇太子のレオを見た。


「レオ、いい機会だ。今後、王家に後継者こうけいしゃあらそいが起こらぬよう。レオ、お前が総大将そうだいしょとして出陣し、逆らうなら兄・シリアスもろともに『幻影げんえい騎士団』をて!」


 と、非情な命令をした。


 レオは、素直にダークスを振り返り、「わかりました父上!」と応じた。


 王の槍トリスタンが、青ざめた表情で、「恐れながら、ダークス卿。『幻影騎士団』は御嫡男ごちゃくなんのシリアス様と、我が父ガーロン・ヴァルダーが騎士団長を務める軍団。なにとぞ、同士討どうしうちのような命令はお控え下さい!」ダークスをいさめる。


 ダークスは、すっと、卓に乗るワイングラスを押し出した。


 ガシャン!


 ワイングラスは、床に破片はへんを飛び散らしながら、真紅の絨毯じゅうたんを赤く濡らした。


 すると、アルハイルが冷静な目でトリスタンに言った。


「トリスタン! 父・ガーロンと戦うことに恐れをなしたか!」と問いただした。


 トリスタンは、アルハイルに向かいあい、「いいえ、そのようなことはございません」と静かに返した。


 アルハイルは、あごを突き出して、「ならばよい。これは、王命である。例え、相手がシリアス様でも歯向かえば遠慮えんりょなく撃破げきはせよ! 他に反論はんろんはないか!」


 と、レオン、セリーヌ、アランを見定めた。


 3人は、声をそろえて、「王命に従います!」と応じた。


 アルハイルは、ダークスの言葉を代弁するように、レオにかしずいて軽く頭を下げた。


「レオ様、さあ、3人の騎士団長に出陣のご命令を!」


「よし!」とレオは立ち上がって、自分の腰の剣を引き抜いて、天にかざした。


「我がヴァルガーデンの騎士団よ。いざ、出陣だ!」




 つづく

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