第29話『領国再建チームポジラー』 

 モルデールの大通りを、ブラック、バイソン『漆黒騎士団』がよろいを外され首から膝までのパジャマのような布の服一枚で、縄で後ろ手で縛られ連行されてくる。


「ヴァルガーデンの卑怯者!」


 子供が、石がブラックの頭に当たる。


 ブラックは、子供を睨んで文句を言い返そうとするが、マックスに「ブラック殿、子供のすることですから、おゆるし下さい」


 と、丁寧ていねいびられる。


 ブラックは、憎まれ口をたたく。


「そなたのひたいを、ボーガンで狙っておれば、今頃、勝敗は違っていた」


 マックスは、冷静に、「ブラック殿の矢が、私の額を射抜いぬいておれば、おっしゃる通り勝敗は違っていたかも知れませんな。しかし、戦の神は我らに味方いたしました」と馬首を返して先頭に戻った。

 

『漆黒騎士団』につづいて、荷車でプレートアーマーやかぶと戦利品せんりひんとしてつづく。


「あっ、アリステロス様……」


 沿道えんどうの人々からため息がもれる。


 アリステロスは、荷車に布団をかれ、顔に白い布をかけられ、胸にで手を組み十字架を握り運ばれてくる。



 それに、つづいて黒いベールをしたアムと景男と手錠で繋がったサンチョがうつむ気味ぎみにやってくる。





 ――1時間前。


 アイアンウルフ峠の関所の詰め所で、MP(マジックポイント)を使い果たして、白目しろめいて気絶しているアリステロスを囲んで、アムと景男とサンチョ、マックス、シリアスを中心に会議が開かれている。


 アムが、口を開く。


「アリステロスは先ほど見たような大魔法使いですが、あのような大魔法を使うと、一カ月は動けず寝たきりになります。私が甘かったです」


 マックスが、アムの後悔こうかいを受けて、「アム様は悪くありません。私がバイソンとの一騎打いっきうちで不覚ふかくをとったばっかりにアリステロスのお力を借りることになりました。マックスの不覚でございます」


 すると、サンチョが兄をかばって、「あんちゃんは、何にも悪くねぇーだ。一騎打ちの場に、ボーガンの矢を放った卑怯者ひきょうもののブラックがいけねぇーだよ。ね、ポジラー様!」と手錠を引く。


 引っ張られた景男は、「そうですね。サンチョさんの言うとおりブラックさんが何もかも悪い。アムちゃんも、マックスさんも悪くない!」


 サンチョは、景男の言葉に感心して、「さすが、ポジラー様だ。オラにはわからねぇー物事をよくわかってるだ」と、ウンウン頷く。


 アムは、落ち着いた声で、景男を見た。


 景男は、また何かムチャぶりがあると予見して、サンチョの背中にそそそと半身を隠す。


 アムは、景男に近づいて、手を重ねて、「ポジラー様、アリステロスが働けない今、私たちの希望はポジラー様だけ、おそらく『漆黒騎士団』を撃破げきはしたしらせは、ヴァルガーデンのダークス卿の元へ届いているでしょう。そうなると、さらなる新手あらてを繰り出してくる。これから、私たちはどう備えればよいのでしょう」と、少しうるんだ瞳で、景男を見つめる。


 アムに見つめられた景男は、そのぽってりとしたくちびるをみると、アイドルグループ『Tropical Breeze』のし涼宮未来との握手会あくしゅかいを思い出す。


 未来と景男が手を握り言葉を交わすには、3000円の金銭が発生するビジネスライクだ。しかし、目の前のアムは、潤んだ瞳で心底しんそこ景男を頼りにしている。


(ムフフ……、異世界生活って案外いいかも♡)


 景男は、だらしなく鼻の下をのばした。


 ゴリッ!


 サンチョが、握り拳を鳴らす音がした。


「ポジラー様、アム様の手をいつまでも握ってないで、アリステロスが解決していた山のような問題を解決する方法を教えるだ!」


 ……無。


 景男は、アムと未来を重ねてだらしない妄想もうそうを重ねていただけで、アムやマックスの悩みをまともに聞いてはいない。しかし、うる覚えの記憶を頼りに場当たり的に言葉をつづけた。


「アイアンウルフ峠の関所には、一旦、シリアス様と『幻影騎士団』に守っていただく。『モルデール騎士団』はアリステロスが完了できなかったアムちゃんの電撃で作動する地雷の作成に当たるで、どうだろう?」


 アムも、マックスも、大きく頷いたが、次の瞬間、シリアスを見た。


「『幻影騎士団』は、ブラックの『漆黒騎士団』を素通りさせたから、シリアス様たちだけに任せるのは心配だわ……」


 シリアスは、面子めんつを重んじる男だ。


「ヴァルダーは、私に忠誠を誓っている男だ。ブラックと『漆黒騎士団』を素通りさせたのは私の責任だ。だが、私を信じて、このアイアンウルフ峠の関所を任せてくれたら、必ず守り抜くと神に誓おう!」


 と、言い放った。


 アムも、マックスも、顔を見合わせて、シリアスを信用しきれない様子だ。


 すると、おっとりサンチョが、「だったら、ここにシリアス様の見張りとしてポジラー様を残して行けばいいでねーか。アム様と兄ちゃんは、モルデールの町で、地雷を制作すりゃーあ万事解決だ。なあ、ポジラー様!」


 と、サンチョは、力強く景男の背中を叩く。


 景男は、吹っ飛んで、アムの胸に顔をうずめるが、スグに、サンチョに手錠を引っ張られ引き離される。


「ポジラー様、スケベ―はいけねぇーだ。オラの目の黒いうちは許さねぇ―!」


 そして、景男とサンチョはシリアスと『幻影騎士団』とともにアイアンウルフ峠の関所の守備につき、アムとマックスは、地雷制作に分担作業することになった。




 つづく

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