第28話『アポカリプスノヴァ! 大魔法使いアリステロ』

 太陽が南中なんちゅうのぼった。ブラックと『漆黒騎士団』が迫りくる中、景男たちは、関所の前のアイアンウルフ峠に掘った穴を隠すべく、そこを埋めるように青々とした木の枝を切り出して逆茂木さかもぎを配置指定った。


 逆茂木とは、敵の侵入を防ぐため、鹿しかつののように伸びる木の枝を敵に向けて敷設ふせつして騎馬の目に刺さる高さで置き、侵入を防ぐ罠だ。


「チッ! まったく田舎者いなかものが、猿知恵さるちえをまわしよって、小賢こざかしい細工さいくをしおるわ」


 そう言って、ブラックはじめ『漆黒騎士団』が馬を降りた。


 ヴァルガーデンの騎士団は、重武装のプレートアーマーを着込んでいる。騎馬きばを降りての白兵戦(白兵戦)は大幅おおはば機動力きどうりょくを失う。その代わり、横に並んで大きなたてのようにして戦うことができる。


 しかし、景男たちがヘビが人がうねって進むように、すれ違うのがやっとの峠道に互い違いに穴を掘り、そこに逆茂木を配置したことによって、向かい合う敵は一対一いったいいちで戦うしかなくなる。


 ブラックは、自分が先頭に立たず最後方さいこうほうで騎馬に乗ったまま先頭せんとうの2mはあろうかというほどの巨漢きょかん重臣じゅうしんの「バイソン」に命じた。


「バイソン、軟弱な「モルデール騎士団」など、お前の武勇をもってすればアイアンウルフ峠の関所など一捻ひとひねりだ。この時のために、お前には一際ひときわ高い給金きゅうきんを払っているのだ頼んだぞ」


 と、バイソンが進み出て、鉄の棍棒こんぼうのようなメイスを振り回した。


「やい、軟弱なる『モルデール騎士団』よ。私は『漆黒騎士団』が一番将いちばんしょうバイソンである。我こそはと思うものは、私と一騎打いっきうちに名乗り出よ」



 関所の見張り台では、シリアスが剣のつかを引き寄せた。


 それを見たアムが、「シリアス様は、あくまで人質ひとじちです。ここでもしものことがあったなら取り返しがつきません」とたしなめる。


 ならばと、マックスが剣の柄を引き寄せ名乗り出ようとした。


 アムは、また首を振る。


「マックス、あなたは『モルデール騎士団』をまとめる騎士団長、もし、あなたを失えばここは総崩そうくずれとなります。ここは、あなたの出番ではありません」と静観せいかんうながすが、若いマックスは首をたてに振らなかった。


 マックスは、首を横に振って、「いや、アム様、ここは『モルデール騎士団』の士気を上げるため必ず勝たなければなりません。どうか、私を行かせてください!」と引き下がるつもりがない。


 アムは、仕方ないといった表情で、「マックス、必ず勝つのですよ!」と送り出した。



 マックスとバイソンは、身長差しんちょうさ20cmはある。モルデールでは大柄おおがらなマックスも相手が悪い。武器は古風なアーミングソードと木の板にぐるりと十字に張った鉄の板がたてだ。


 対するバイソンは、盾こそないが重層甲じゅうそうこうのプレートアーマーは簡単には剣の攻撃を受けつけない。それに、膂力りょりょくに勝る重量じゅりょうのあるメイスが木の盾には厄介やっかいだ。


 マックスは、アーミングソードを巧みに体の周りで細い枝でも振るようにウォーミングアップをする。


 バイソンは、錘玉おもりだまのついたメイスを頭上で振る。その高さは3mをゆうに超える。


 バイソンは、パンパンの丸顔でマックスを見下しながら、「おい、若造、オレも人の親だ。お前のような死に急ぐ人間をみるとあわれに思う」と言った。


 マックスは、「チャリン!」と剣を正眼せいがんかまえ、「心配ご無用です。若く見えても私は、『モルデール騎士団』騎士団長、負けはしません!」と落ち着いた闘志とうしを燃やしている。


 バイソンは、「そうか、ならば、こちらから参るぞ!」と、メイスを振るって錘玉をマックス目掛めがけて振り下ろした。


 ドスンッ!


 ヒョイっと、マックスが錘玉をかわしたあとには大きな穴がぽっかりと開いていた。


 マックスは、森と山岳さんがくのタンクホルム山の戦いに特化とっかした、全身を動きやすいレザーアーマーで固めている。防御力は弱いが、その代わり身動みうごきは機敏きびんだ。


 バイソンは、マグロなどの大物の魚でも釣り上げるように錘玉を引っ張り上げた。


「ふん、チョロチョロと小賢しい奴だ。いくら逃げても、お前など、オレの一発であの世行きだ。せいぜい逃げ回るがいい」


 と、錘玉をハンマー投げのように、クルクルと振り回し始めた。


 これには、マックスも身を躱すだけでは免れない。地面と錘玉がベーゴマがぶつかりくるように向かってくる。


 ヒューイ!


 マックスは、驚くべき跳躍力ちょうやくりょくで、バイソンの頭の上を舞うように飛躍ひやくしながら、シュっとアーミングソードの切っ先でかぶとを弾き飛ばした。


 着地したマックスは、落ち着いて、「これで、あなたの首は無防備むぼうびになりました。これで互いに必殺ひっさつの1げき勝負がつきますな。


 バイソンは、メイスをかついで、「おもしろい。若造、そうほざくからには、オレより先に死ぬなよ! さあ、勝負だ‼」


 バイソンは、メイスをグルリグルリと間合いをはかりながら錘玉を回す。


 マックスは、必殺の一閃いっせんを放つため、神経しんけいます。


「どりゃー!」


 バイソンが、錘玉を振り下ろした。


 マックスは、刹那に錘玉を躱し、アーミングソードの一閃を光らせた。


 ヒューッ!


「クッ!」


 マックスの必殺の一撃はバイソンの首に届かなかった。代わりに、利き腕の右肩にボーガンの矢が刺さっている。




 見張り台で、見ていたシリアスが、目をつぶって、アムにびた。


「ブラックめ、男と男の一騎打ちに、ボーガンなど使いおって、アム様。同じヴァルガーデンの者として、頭を下げる」


 アムは、シリアスをめる素振りもみせず、「いいえ、不測ふそく事態じたいいくさの1つです。正々堂々せいせいどうどうだけが戦ではありません」


あんちゃん!」


 自慢じまんの兄が、卑怯ひきょうなブラックによって手傷てきずを負わされた。弟のサンチョは、居てもたっても居られず、景男を担ぎ上げ、急いで兄を助けに向かった。




 バイソンは、主であるブラックの卑怯さは心得こころえている。深手ふかでったマックスをせめて一撃で、あの世へ送ってやろうとメイスを振り下ろした。


 マックスは観念して、目を閉じた。


「シャドウステップ!」


 影が、一瞬いっしゅん、走りマックスを隠した。


 次の瞬間、マックスを助けに来たサンチョに影が預けた。影が止まると、ふんわり宙に浮く、小枝の杖を『漆黒騎士団』に向ける大魔法使いアリステロスがいた。


「遅くなったな、皆の者。ここから、こやつらは私が引き受ける! アポカリプスノヴァ‼」


 きらめくひかりやいばがブラック、バイソンを含めそこに居る『漆黒騎士団』全員を貫いた。


 光の大爆発が明けると、『漆黒騎士団』は壊滅していた。


 それを見届けると、アリステロスは、マックスの腕に刺さた矢を引き抜いて、「ヒーリングライト!」と、小枝を振るった。


 マックスの腕の傷は、みるみるふさがって元通りになった。


 マックスは、グルグル腕を回して、「アリステロス様、腕は回復しました。ありがとうございます」


 アリステロス様は、マックスの言葉を聞き終えるか否かで、白目しろめいて前のめりに倒れた。




 つづく


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